KEEPER 世界を守るということ
「いや、綺麗だって意味で…」
「ふ~ん」
女はそう言って俺に近づいてきて、
くんくんと俺の匂いを嗅いだ。
えっ、俺におうの?
汗臭い??
「…煙の香りがする。煙草吸ってるの?」
「いや、吸ってないです…」
整った顔がすぐ目の前にきたせいか、
不覚にも緊張してしまった。
この人はあまりにも綺麗すぎて、
自分では手を出してはいけないと思った。
聖域という言葉がぴったりな人。
「名前は?」
「紅藤健」
「年は?」
「19」
女は俺を観察するように見ながら、
俺の周りを一周回って男の隣に並んだ。
「私は風見桜、20歳。よろしくね」
「俺は海・パンドラ・ジャスミン。
パンドラがミドルネームで、
ジャスミンが苗字。
海でいいよ。
21歳。
よろしく、健」
「…よろしく」
そのとき俺は、
この人たちに安心感に近いものを感じた。
初対面で言うのもなんだが、
家族といるときのあの包まれた雰囲気を、
この人たちから感じたのだ。
聞きたいことがある。
ありすぎてどこから聞こうか…
考えがまとまらず、
口をぱくぱくさせていたとき。
ピーッと高い笛の音が鳴り響いた。
桜がくるりと振り返って城を見上げ、
海はちらりと城に目をやった。
「行くね。説明しといて、海」
「了解。話ながらセントラルに向かうよ。気をつけて」
海の言葉に頷き、
桜は城へ走り城内に消えた。
「…さて」
海の言葉で俺は自分が金魚のように口をぱくぱくしていたことに気づいた。
恥ずかしくて赤くなりながら口を閉じると、
海が微笑んだ。
また赤くなる。
この男には性別関係なく人を魅了してしまう力があるようだ。
「行こうか」
海は城に向かって歩き始めた。
「えっ、あの、どこに?」
俺は走ってあとを追った。
「セントラル。ここの中核ですべての力が集まってる場所だよ」
城の中に入ると、
小さな窓しかないのに明るかった。
内側まで白い壁だから、
光がよく反射するのだろう。
ほのかに緑がかった白い廊下が続いていた。
「不思議だろ、この廊下。桜はこの廊下を散歩するのが好きなんだよ」
海は俺に合わせて歩いてくれた。
脚の長さが違うと進む歩幅も違う。
俺の脚が短いんじゃないよ?
海が大きかっただけ。
「…どこから話そうかな。健は自分にしかできないことってある?」
特に何かできるわけではない俺は、
このとき答えが見つからなかった。
もしもあるとしたら…
「俺はね~、湿度が高くなるんだ」
「………は?」
「俺がいる空間は自然と湿度が高くなるんだよね。あとは海に入ると拐われやすい」
「それって泳げないだけじゃないっすか?」
「敬語じゃなくていいよ。桜にも同じさ、戦うときにめんどくさいからね」
「はぁ…」
ん?戦うって言った…?
「俺は海に好かれてるみたいなんだ」
海は階段を登りながら、
穏やかに言った。
辺りにはまだ警戒心を煽る笛の音が鳴り響いているのに、
海はその穏やかさを絶やさなかった。
「桜の周りは常にそよ風が吹いてる。あいつが寝てるときでも、心地よい程度の風がね。あいつは風に好かれてるんだ」
好かれてるってどうゆうこと?
何の話をしてるんだ?
「健はそんな感じのことない?」
「…」
ない、と言おうと口を開いて、
また閉じた。
ないとは言い切れない。
俺にも同じようなものがある…
「俺は…」
言いかけたところで、
海は大きな扉の前で止まった。
「桜は勘がいいから、
きっと気づいてるかも。
煙の匂い…だっけ?」
扉が海によって開けられた。
部屋の中は廊下よりも暗かった。
しかし緑が強くなっただけで、
白いのには変わらない。
円形の部屋で天井はドーム状になっている。
部屋の中には白く長いスカートのような服を着た人たちが、
あわただしく動いていた。
ざっと数えて15人ほど。
一人は巨大モニターの前で大きなキーボードのようなものを打ち、
一人は部屋の壁にある棚から、
大粒の宝石のようなものを持って、
あちこちの作業中の人に渡していた。
そして…かすかな煙の匂い。
部屋の中央に三本蝋燭があった。
ちらちらと炎が揺れていた。
「連れてきたよ」
海が部屋に入ったので、
俺はあとに続いた。
足を踏み入れた瞬間、
炎が大きくなり、
蝋燭を包みこんで激しく燃えてから消えた。
「炎の力か…」
先ほど燃えた蝋燭の向こうから、
年老いた男の声がした。
見ると、
声に似合った白い髭に長い白髪の男が立っていた。
その目は吸い込まれそうなほど深い青い瞳をしていた。
「なるほど、煙の匂いで思いついたのだな」
「流れ出てた力を匂いだと思っちゃっただけだよ」
男が言うと、
左手から桜の声がした。
桜は淡い緑のコートに深緑のショートパンツ、
黒のニーハイに黒のショートブーツに着替えていた。
そういえば、
ここにいる人たちはみんな白い服を着ているが、
海は青い長い服を着ている。
桜は緑で、
海は青…
「俺たちでもこんなに空間に影響を与えない。
結構力強いんじゃない?」
「海は抑えてるからでしょ?
抑えなきゃ今頃ここ洪水になってるよ」
桜が吐いた毒に海は肩をすくめた。
「ここがセントラル。俺たちの戦いを支えてくれるところだ」
海は桜に歩み寄りながら言った。
「さっきの笛の音が鳴ったらまずここにくる。
んで、着替えて敵の状況をこのモニターで確認する」
海が指さしたモニターに映像が映った。
木立が続く、
雪で真っ白になった森だ。
動物の姿も鳥の姿もない。
ただ、
なにか禍々しいものがいるような…
そんな雰囲気が漂ってくる森だった。
「確認できました。
小鬼が50体。
座標も確定しています」
モニター前に座ってキーボードを叩く女性が言った。
「特殊能力の反応は?」
桜がアキレス腱を伸ばすようにストレッチをしながら聞いた。
「…ありません。
しかし術士がいる可能性が高いです。
もし桜さんが操られたら…」
「それだけわかればいい。
あとは私の問題。
へまはしないさ」
桜の周りを風が渦巻いた。
そよ風のレベルではない。
「怪我すんなよ」
「それは無理な注文だな。
努力はするよ」
海の言葉に笑顔で答え、
桜は髭の男のほうを向いた。
「行ってきます」
「暴れてこい。
無理はするなよ」
男の言葉にも笑顔を浮かべ、
桜は胸の前に人差し指と中指を立てて握った右手を持ってきた。
一際強い風が吹き、
桜が消えた。
「ふ~ん」
女はそう言って俺に近づいてきて、
くんくんと俺の匂いを嗅いだ。
えっ、俺におうの?
汗臭い??
「…煙の香りがする。煙草吸ってるの?」
「いや、吸ってないです…」
整った顔がすぐ目の前にきたせいか、
不覚にも緊張してしまった。
この人はあまりにも綺麗すぎて、
自分では手を出してはいけないと思った。
聖域という言葉がぴったりな人。
「名前は?」
「紅藤健」
「年は?」
「19」
女は俺を観察するように見ながら、
俺の周りを一周回って男の隣に並んだ。
「私は風見桜、20歳。よろしくね」
「俺は海・パンドラ・ジャスミン。
パンドラがミドルネームで、
ジャスミンが苗字。
海でいいよ。
21歳。
よろしく、健」
「…よろしく」
そのとき俺は、
この人たちに安心感に近いものを感じた。
初対面で言うのもなんだが、
家族といるときのあの包まれた雰囲気を、
この人たちから感じたのだ。
聞きたいことがある。
ありすぎてどこから聞こうか…
考えがまとまらず、
口をぱくぱくさせていたとき。
ピーッと高い笛の音が鳴り響いた。
桜がくるりと振り返って城を見上げ、
海はちらりと城に目をやった。
「行くね。説明しといて、海」
「了解。話ながらセントラルに向かうよ。気をつけて」
海の言葉に頷き、
桜は城へ走り城内に消えた。
「…さて」
海の言葉で俺は自分が金魚のように口をぱくぱくしていたことに気づいた。
恥ずかしくて赤くなりながら口を閉じると、
海が微笑んだ。
また赤くなる。
この男には性別関係なく人を魅了してしまう力があるようだ。
「行こうか」
海は城に向かって歩き始めた。
「えっ、あの、どこに?」
俺は走ってあとを追った。
「セントラル。ここの中核ですべての力が集まってる場所だよ」
城の中に入ると、
小さな窓しかないのに明るかった。
内側まで白い壁だから、
光がよく反射するのだろう。
ほのかに緑がかった白い廊下が続いていた。
「不思議だろ、この廊下。桜はこの廊下を散歩するのが好きなんだよ」
海は俺に合わせて歩いてくれた。
脚の長さが違うと進む歩幅も違う。
俺の脚が短いんじゃないよ?
海が大きかっただけ。
「…どこから話そうかな。健は自分にしかできないことってある?」
特に何かできるわけではない俺は、
このとき答えが見つからなかった。
もしもあるとしたら…
「俺はね~、湿度が高くなるんだ」
「………は?」
「俺がいる空間は自然と湿度が高くなるんだよね。あとは海に入ると拐われやすい」
「それって泳げないだけじゃないっすか?」
「敬語じゃなくていいよ。桜にも同じさ、戦うときにめんどくさいからね」
「はぁ…」
ん?戦うって言った…?
「俺は海に好かれてるみたいなんだ」
海は階段を登りながら、
穏やかに言った。
辺りにはまだ警戒心を煽る笛の音が鳴り響いているのに、
海はその穏やかさを絶やさなかった。
「桜の周りは常にそよ風が吹いてる。あいつが寝てるときでも、心地よい程度の風がね。あいつは風に好かれてるんだ」
好かれてるってどうゆうこと?
何の話をしてるんだ?
「健はそんな感じのことない?」
「…」
ない、と言おうと口を開いて、
また閉じた。
ないとは言い切れない。
俺にも同じようなものがある…
「俺は…」
言いかけたところで、
海は大きな扉の前で止まった。
「桜は勘がいいから、
きっと気づいてるかも。
煙の匂い…だっけ?」
扉が海によって開けられた。
部屋の中は廊下よりも暗かった。
しかし緑が強くなっただけで、
白いのには変わらない。
円形の部屋で天井はドーム状になっている。
部屋の中には白く長いスカートのような服を着た人たちが、
あわただしく動いていた。
ざっと数えて15人ほど。
一人は巨大モニターの前で大きなキーボードのようなものを打ち、
一人は部屋の壁にある棚から、
大粒の宝石のようなものを持って、
あちこちの作業中の人に渡していた。
そして…かすかな煙の匂い。
部屋の中央に三本蝋燭があった。
ちらちらと炎が揺れていた。
「連れてきたよ」
海が部屋に入ったので、
俺はあとに続いた。
足を踏み入れた瞬間、
炎が大きくなり、
蝋燭を包みこんで激しく燃えてから消えた。
「炎の力か…」
先ほど燃えた蝋燭の向こうから、
年老いた男の声がした。
見ると、
声に似合った白い髭に長い白髪の男が立っていた。
その目は吸い込まれそうなほど深い青い瞳をしていた。
「なるほど、煙の匂いで思いついたのだな」
「流れ出てた力を匂いだと思っちゃっただけだよ」
男が言うと、
左手から桜の声がした。
桜は淡い緑のコートに深緑のショートパンツ、
黒のニーハイに黒のショートブーツに着替えていた。
そういえば、
ここにいる人たちはみんな白い服を着ているが、
海は青い長い服を着ている。
桜は緑で、
海は青…
「俺たちでもこんなに空間に影響を与えない。
結構力強いんじゃない?」
「海は抑えてるからでしょ?
抑えなきゃ今頃ここ洪水になってるよ」
桜が吐いた毒に海は肩をすくめた。
「ここがセントラル。俺たちの戦いを支えてくれるところだ」
海は桜に歩み寄りながら言った。
「さっきの笛の音が鳴ったらまずここにくる。
んで、着替えて敵の状況をこのモニターで確認する」
海が指さしたモニターに映像が映った。
木立が続く、
雪で真っ白になった森だ。
動物の姿も鳥の姿もない。
ただ、
なにか禍々しいものがいるような…
そんな雰囲気が漂ってくる森だった。
「確認できました。
小鬼が50体。
座標も確定しています」
モニター前に座ってキーボードを叩く女性が言った。
「特殊能力の反応は?」
桜がアキレス腱を伸ばすようにストレッチをしながら聞いた。
「…ありません。
しかし術士がいる可能性が高いです。
もし桜さんが操られたら…」
「それだけわかればいい。
あとは私の問題。
へまはしないさ」
桜の周りを風が渦巻いた。
そよ風のレベルではない。
「怪我すんなよ」
「それは無理な注文だな。
努力はするよ」
海の言葉に笑顔で答え、
桜は髭の男のほうを向いた。
「行ってきます」
「暴れてこい。
無理はするなよ」
男の言葉にも笑顔を浮かべ、
桜は胸の前に人差し指と中指を立てて握った右手を持ってきた。
一際強い風が吹き、
桜が消えた。