KEEPER 世界を守るということ
「KEEPER…」
俺は思わず繰り返してしまった。
自分の体が、
どくんと脈打った。
俺の中のなにかがその言葉に反応したみたいだった。
「そうだ。
もちろん、
奴はKEEPERの存在に気づき、
排除しようとした。
しかし、奴はKEEPERを操ることを思いついた。
KEEPERを使って自然のバランスをさらに崩そうと試みているようだ」
「自然のバランスが崩れたら…どうなるんだ?」
「…天変地異が起こると考えられる。
地震、津波、異常気象、
様々な可能性がある。
私たちはそれを防ぐため、
世界を守る役割を担うために、
KEEPERと呼ばれるのだ」
「…俺の力はそのためのもの?」
「そうだ。
健はいつから力に気づいた?」
「力って意識はしたことないけど…
1ヶ月くらい前に、
友達がタバコを始めて、
俺の前で一服しようとしたんだ。
俺タバコの煙が嫌いで、
ちょっと嫌な顔したんだよね。
そしたら、
友達がライターで火をつけた瞬間に、
ライターが燃えちゃって…
そっからライター、マッチ、蝋燭、お線香も火がついてたら全部燃えてなくなっちゃうようになった。
…力の影響なのか?」
俺は自分の身の回りで起こったことを話した。
確かに不思議な出来事で、
なぜそうなるのかまったくわからなかった。
なにか特別なことをしたわけじゃないし、
かといって神社の神聖な木とか、
狛犬とかに罰当たりなことをした覚えもないから、
祟られてるわけではないとは思ったけど。
「炎の力…太陽のKEEPERだ」
「火を操れるってこと?
でも操るなら、
その…奴ってのと変わらないじゃん」
「操る力とKEEPERの力には大きな違いがある。
海!ちょっと来い!」
パンドラが呼ぶと、
海は振り返ってため息をついてやって来た。
「せっかく桜を追い詰めてたのに~。
“る”から始まる言葉が思いつかないって、
めっちゃ考え込んでるんだよ?」
「戦う前にリラックスしすぎだ。
海は水の力、海のKEEPERだ。
海、なんかやってみろ」
「なんかって?」
「なんでもいい。
この部屋を洪水にしない程度に、
力を見せてくれ」
「じゃあ…」
海は胸の前に、
先程の桜と同じように、
人差し指と中指を立てて握った右手を持ってきた。
「‐狂い咲け、氷輪花‐」
海が差し出した左手に、
水で象られた透明な花が咲いた。
「なに…?」
触れようと手を近づけた。
…瞬間、
指先に氷が張り始めた。
息が白くなり、
空気中の水分が凍りつき、
小さな蕾へと変化していった。
「操る力はそのものの動きを意のままにできる力を指す。
操るものがなければ操ることはできない。
健の力は、
そのものの状態まで意のままにできる力だ。
そのものがなくても、
生み出すことができるし、
消すこともできる」
「こんな感じでね」
一斉に氷の花が開花した。
同時に部屋の床や壁まで凍りついてしまった。
「海!
モニターと機械が止まる!!」
「あぁ、ごめんごめん」
モニターの前にいた女が叫ぶと、
海は慌てて左手の花を握った。
ぱんっと水の花が破裂したように飛び散り、
辺りの氷の花は水に戻り空中に消えていった。
「今のは空気中の水分を集めて凍らせたんだ。
手のなかの花は俺が出したんだけどね」
海が右手の人差し指をくるっと回すと、
指先に水の球が生まれた。
「力の使い方はたぶん俺かお爺ちゃんが教える。
そのほかは桜がやってくれると思うよ」
海はおいで、と俺に手で合図した。
「空手とかボクシングとかやったことある?」
「中学校の授業で柔道やったけど…
そんなに強くないよ」
「剣道は?」
「まったくやってない…」
「桜、どうする?」
海は耳元のピアスに触れて言った。
よく見ると、
深い青色の石に水色がかった透明な石がぶら下がったピアスだった。
「これは通信用のピアス。
言葉を向こうに届けてくれるんだ。
戦ってるときも大声で話さなくていいから便利なのよ」
「健もつけるでしょ?
私と組むんだし、
ないと困るよ」
部屋に桜の声が響いた。
「向こうに行ったらピアスが声を拾ってくれる。
やばくなったらすぐに言って。
こっちでも対策とるからさ」
海が俺のほうを見て言った。
「やばくなったらって…
じゃあこれから桜さんもやばくなるかもしれないのか?」
「もちろん、
戦うんだからリスクはあるよ」
「一人でだろ?
なんで他に誰も行かないんだよ!」
俺はなぜか声を荒げて言ってしまった。
たぶん女一人で戦わせることが、
男として許せなかったんだと思う。
「馬鹿にしないでよ。
あんたより場数踏んでるし、
これは私が望んでやってるんだから。
あんたに止められる筋合いないね」
桜の冷たい声が帰ってきた。
「この通りさ。
それに、
下手に人数増やして戦っても、
向こうに操られたら余計部が悪くなるだろ?
桜と一緒に戦うのは健だけさ」
「…俺?!」