戦慄フォルテシモ




親父は夕食が終わるとすぐにお付きの人が迎えに来て帰って行った


こんな僅かな時間の夕食会に何の意味がある?


だからおふくろに逃げられたんだ

まぁ、他に女は居るんだろうけど




『尚、どうしてお前はいつも不機嫌なんだ?父さんの前くらい愛想良くしろよ』


親父が帰った途端、兄貴の態度はコロッと変わった


あの作り笑顔はどこへやら、吸い慣れてない煙草をふかしている



『愛想良くして何の得があんの?』


むしろ血の繋がった父親の前で気を使わないといけないのがおかしい



『はぁ、お前分かってないね。父さんに好かれていた方が得に決まってるだろ?』



感覚がずれてる

きっとこのずれは日に日に増していく



兄貴は親父のコネでいい大学に入って、親父が所有するマンションで暮らしている


親父、親父、親父

親父が居なきゃ何も出来ないくそ野郎



『俺達は生まれた時から勝ち組なんだ。何もしなくてもいい大学に行けて、いい会社に勤められる。そうだろ?尚』


鼻につく煙草の煙が寄ってきて、俺はまた舌打ちをした






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