赤い月 肆

緩みっぱなしのアホ面のまま、下りエスカレーターに差し掛かる。

と、隣のうさぎが前のめりに揺れた。

巨大ぬいぐるみの包みが邪魔をして手を伸ばすのが一瞬遅れ、景時の指が宙を掴む。

落ちる‥‥‥

普通に落ちても大怪我だ。
もしもステップに巻き込まれでもしたら‥‥‥


「うさぎ!!」


景時は悲鳴を上げた。


「騒ぐでない。
何かがぶつかっただけじゃ。」


斜め上辺りから聞こえる涼しい声に景時が顔を上げると…

‥‥‥浮いてる。

あ。
うさちゃん、飛べたンだった。

良かったぁぁぁ。

景時は安堵に胸を撫で下ろし…


(浮いてる??!!)


「うううさちゃん、降りて降りて。」


無事なのは良かったケドね?

ホントにホントに良かったケドね?!

誰かに見られちゃ、マズいでショー?!

景時が慌てて周囲を見回すが、こちらに注目している人はいないようだ。

だが…


(あれ‥‥‥?)


通路を曲がって消える、誰かによく似た後ろ姿。

昔よく見てた、後ろ姿。

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