赤い月 肆
「あれぇ?
今日は鍵忘れてきたのぉ?」
ドアを開けた深雪は、バスタオルを巻いただけの姿だった。
慌てて玄関に入り、後ろ手にドアを閉める。
髪が濡れている。
シャワーを浴びていたのだろう。
そんな格好で出てくるなんて、本当に無防備な人だ。
それとも‥‥‥計算?
(邪推だよ。)
景時は目のやり場に困りながら、頭に浮かんだ考えを打ち消した。
「どうしたの?
早く上がって?」
「ううん。
ココでイイ。
…
深雪さん…
昨日の夕方、駅前のショッピングモールにいた?」
「夕方?
もうお店の準備に入ってる時間だけど…
知ってるでショ?」
不思議そうな深雪の声。
そーだよね。
そりゃそーだ。
見間違いだ。
他人の空似だ。
第一、後ろ姿だけなんだ。
景時は深く息を吐き、薄く笑った。