赤い月 肆

景時が身を屈め、深雪が落としたバスタオルを拾い上げた。

裸の身体を包み隠すように、目に涙を浮かべた彼女の肩に羽織らせる。


「今までありがとう。
深雪さんが本当の恋をして、幸せになるコトを祈ってる。」


早くパジャマ着ろよ、なんて頭を撫でて。

最後の最後に、見慣れた柔らかい笑顔を見せて。

彼が扉の向こうに消えた。

自分から離れていかないと思っていた、彼が消えた。

残されたのは部屋の鍵。

二人を繋いでいたモノも、彼は自分から手離した。

なにもかもが消えた。

そして彼の帰る場所には、きっとあの綺麗なコが待っていて…

深雪の頬に、涙が一粒伝った。

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