赤い月 肆
祥子は動けなかった。
ナニが起こっているのか、理解すらできなかった。
(ナニ? コイツら…)
最初に飛ばされた、見たこともない醜悪な生き物が身を起こす。
自分に向かって爪を翳し、跳躍する。
ソイツの口から滴る唾液まで、スロー再生したかのように、ハッキリ見える。
(夢?)
ホラーな夢だ。
そういえばこの間、大吾がレンタルしてきた『死霊のはらわた』とかいう古いホラー映画を観た。
そのせいで、こんな夢を見るんだ。
ホラーなんて観るモンじゃねーわ、やっぱ。
大吾に文句言わなきゃ。
あぁ、もうすぐあの爪が私を切り裂いて、はらわたを…
でも…
私、いつの間に寝たっけ?
ぼんやりと立ち尽くす祥子を、衝撃が襲った。
肉を裂く鋭い衝撃ではない。
横から押し倒される鈍い衝撃。
祥子は衝撃を与えたナニカと一緒に、床を転がった。