赤い月 肆

「とりあえず、状況は忘れろ。
のう、景時。」


俯く景時の顔を、うさぎが覗きこんだ。

心を射抜くような赤い瞳に囚われる。

あー… ヤベぇな。
もう逃げらンねぇ。
きっと、全て見抜かれる。


「…ナニ?」


「人が心を持ち生きておる限り、誰もが闇を産み、鬼となる恐れがある。
それは、人の心が穢れておるからではない。
堪えきれぬ悲しみ。
抱えきれぬ孤独。
そして… 深い絶望。
それらにより心が壊れた時、人は闇を産み、闇を呼び、鬼と化す。
だから妾は、鬼をおぞましいとは思わぬ。
ただただ、不憫じゃ。」


そなたら人にとってはただの害悪であろうが、とうさぎは髪を揺らしながら、少し悲しそうに笑った。


「その哀れな鬼を使い、誰かに仇なそうとする者の心こそ、おぞましい。
目的を果たす為、関わりのない者らの犠牲をも省みないなど、正に鬼畜の所業。
‥‥‥景時。」


「…」

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