赤い月 肆

まずその恋敵が、一年余りの間意識不明に陥るほどの大事故に遭う。

大学のキャンパスを歩いている際、資料が大量に詰め込まれたままのスチールロッカーが上から落ちてきて、頭を直撃したというのだ。

なんでそーなった?

まさにあり得ない事故。

ライバルが居なくなった深雪は首尾よく恋を実らせたが、数ヶ月も経たず、やはり男は突然死していた。

その後、奇跡の回復を果たした恋敵は、事故直前スチールロッカーが設置されていた教室の窓に深雪の姿を見たと警察に訴えたが、あまり相手にされなかったようだ。

理由は、そのロッカーが人一人の力で持ち上げられるような重さではなかったから。

加えてケガによる記憶の混濁や、恋に敗れたことによる逆恨みも考慮され、深雪への厳しい取り調べには至らず、事情聴取程度で済んでいた。

それからの深雪は、景時のよく知る深雪だった。

絶えず複数の男と関係を持ち、切り捨て、また手に入れの繰り返し。

一夜限りの男ともなると、確認するのも難しい数に上るそうだ。

だが、それらの男たちとその周囲に、不自然な『死』は訪れていない。

今回の、不自然極まりないオニの襲撃があるまでは…

< 175 / 265 >

この作品をシェア

pagetop