赤い月 肆
うさぎはソコにいた。
四肢に、首に、美しい顔に鈍色の文字を無数に這わせて。
いつもは雪のように白い肌を、紅を差したような唇を、蒼白にして。
まともに着付けることが出来なかったのだろうか、いつもよりさらに着物を着崩して。
喘ぐような荒い息遣いで。
それでもうさぎは開いた窓に膝をかけ、ドコかに飛び立とうとしていた。
「うさぎサマ!!
ナニやってンだ!!」
薫の声に振り向いた拍子に、うさぎの小さな躰がグラリと揺れる。
咄嗟に腕を伸ばし、彼女を支えようとしたが、
「触れるでない!」
鋭く拒まれる。
為す術もなく床に崩れ落ちたうさぎは、色を失った唇を噛みしめて、なんとか上半身を起こした。