赤い月 肆

「‥‥‥‥‥死ねぬ。」


低く呻いたうさぎが身を起こす。

何度でも、身を起こす。


「今… 妾が死ねば…
あの阿呆は…生涯、己を…責めるだろう…
そのような事は…させぬ…」


うさぎは顔を上げて、真っ直ぐに薫を見据えた。


「呪を… 解きにゆくのじゃ。」


乱れて頬にかかる髪。

青白い肌。

それでも赤い瞳だけは爛々と燃え上がっていて…


(あ。
大丈夫だわ、この人。)


彼女は死なない。
景時のために、死なない。

本当に優しい人だから。

薫は柔らかく微笑んだ。

そしてベッドからシーツをひっぺがし、やめろ、感染る、ともがくうさぎをグルグル簀巻きにしていく。

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