赤い月 肆
ここにきて、私に焦燥感が生まれた。
今までこんなところで躓くことはなかったのに。
人間なんて、いつだって呆気なく殺せたのに。
その上、女の心に変化が芽生えだしていた。
女は男を諦め、男の幸せを願おうとしていたのだ。
なんてこと!
なんてこと!
女が男を求めなければ、私のしていることが無意味になってしまう。
心が壊せなくなってしまう。
後一息なのに!
私は賭けることにした。
男が大事にしている彼女を、女が殺したように見せかける。
そうすれば、男は女を責めるだろう。
激しく憎悪するだろう。
それを女に体感させてやろう。
罵られ、殴られ、蔑まれ…
あぁ…
考えただけでゾクゾクするわ。
私が手を下すまでもない。
女は、愛した男に心を壊されるのだ。
私は危険な賭けに勝ち、男は怒りに拳を震わせながら私の前に立った。
やったのは私じゃない、なんて泣き叫んでも、もう遅い。
男には聞こえてないわ。
さぁ…
男の憎悪に晒されるがいい。
心を砕かれるがいい。