赤い月 肆
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妾は死んだ。
息をし、血は巡り、躰は生きておったが、魂は死んだ。
あんなに愛した美しい世界も心優しい人々も、妾の中で色を失くし、灰となり散った。
愛していた男もまた…
だがその男は妾を支えようとしてくれた。
魂を甦らせようと、心血を注いでくれた。
百年以上の長い年月を、脱け殻となった妾に寄り添い続けてくれた。
妾には、それが辛かった。
零れた水が元に戻る事がないのと同じく、死した命が戻る事などないのだから。
魂を失い、躰ばかり生き腐れていた妾は、ついに男に懇願した。
殺してくれ、と。
月の美しい夜だった。
男は初めて妾に涙を見せた。
どんなに酷い事を男に強要しているのか、知っていた。
どんなに愛されているのかも、知っていた。
なのに、男の涙になんの感情も湧かない自分がいた。
だからこそ、願った。
躰と云う呪縛を解き放ち、妾に死の安らぎを。
妾と云う呪縛を解き放ち、男に…黒曜に新たな愛と安らぎを。
どうか…