玄太、故郷へ帰る
「弥生さん……ていったかしらね。まだ、随分、お若いようだけど」
そう弥生ちゃんに問う母の声には、少し、イヤミが含まれているかもしれない。
けれどもそれに気が付く様子もなく、湯呑みから口元を離し、弥生ちゃんは大きな瞳をパチパチとさせて答えた。
「はい。じゅう、きゅうです」
じゅ、じゅうきゅう!?
19才!?
弥生ちゃんの回答に、私も母も絶句。
「弥生とはね、3年前から付き合ってんだ。あ、僕ら、すぐにでも籍入れるつもりだから」
「………」
「………」
玄太の、相変わらずな態度。
何事も気にする気配はなく、にゅうっと手を伸ばし、むんずと煎餅を一枚掴み、バリバリバリと頬張る。
籍を入れるなどと。
……父に、何と言うつもりなのだ。
隣の母の顔には、ハッキリとそんな気持ちが浮き上がっていた。
それはきっと、私も同じ。
いや、でも。
父だって、予想はついているはずだ。
彼女のお腹を見れば分かる。
それは尋常ではない状態を表しているし、すなわち、それは……
「孫さ。春には生まれるよ。女の子なんだ。楽しみでしょう、母さん」
にんまり、と玄太が笑う。