玄太、故郷へ帰る
4
夕方。
一階では、父と母の言い合う声が響いていた。
二階に上がったきり、一階にはほとんど降りてはいかない玄太と彼女。
……それから私。
母だけが一人、父に責められている。
明日の晩御飯は鍋にしようかなんて、昨日の夜は母とそう話していたのに。
鍋だなんて、家族で食卓を囲むだなんて、全くそれ所ではないみたいだ。
雪かきから戻った父はそのまま部屋に籠ってふて寝をし、時々何かと母を怒鳴り付けていた。
母は逃げる様に近所のスーパーへと買い物へ行き、安い弁当を買って帰って来た。
『美香恵、これ、あの子たちにも、一個づつね』
そう言って母は、私の部屋へと弁当を3つ運んで来たけれども、その顔にはもうすっかり疲れの色が見えていた。
私は嫌だとは言えず、任せておいとばかりに笑顔を見せたけれども、心中は私だってあの二人と顔を合わせるのは嫌だった。
特に弥生ちゃんには、私にはやはり強い苦手意識がある。
それなので机の上に弁当を3つ積んだまま、私は冷えてしまって置きっぱなしだったコーヒーを仕方なしに啜っていた。