玄太、故郷へ帰る
そんな風に私が、弁当を渡すタイミングを見計らいながら、机の前に座ったまま時間を潰していると、
「姉ちゃん、入るよ」
と、何とも都合よくドアの向こうから玄太の声がした。
「ほいよ」
私が返事をするよりも早く、部屋のドアは開く。
昔からそうだ。
その隙間から、背の高い弟がにゅうと現れた。
「腹、へったんだけど。何か下から持って来てよ」
上半身だけをドアに挟み込み、少しだけ申し訳なさそうに顔をしかめる玄太。
「寒いから、閉めてよ。ほら、弁当あるから。母さんから預かってる」
私がそう言って弁当の袋を持ち上げると、玄太は待ってましたとばかりに手を叩いた。
「弥生ちゃんの分もあるみたいだけど」
「あ、あいつのはいいよ。今、寝てるし。あんまり食欲ないみたいだしさ」
「でも妊娠中なのに、食べなくていいの?」
「だからだよ。これ、この匂い、鶏カラでしょ? こんな匂い嗅いだら、あいつ、すごい嫌がるよ。最近またつわりがあるんだ」
玄太は私から弁当を受け取ると、ベッドに座って袋の中を覗き込んだ。