玄太、故郷へ帰る
「詩を書くのは特別な事じゃないし、それは生活にすごく密着しているし、それに……」
玄太はそこで一端呼吸を整えると、ご飯を一口頬張った。
「……それに?」
私がわざとそう急かすと、玄太はまた眉間に皺を寄せた。
「ん……ほれに……」
……それに?
答えようとする玄太の口からは、ご飯粒がはみ出してきそうだ。
「ん……んむ、だからね、僕に必要なものはどこにでもあるし、だけど原点はここにしかないんだ。東京にいる必要も、ひとりぼっちになる必要もなくなった。そんなのは、ただの格好つけだって気がついたんだよ」
「……へえ」
「弥生と付き合ってて、子供ができて、それでわかったんだ」
「……うん」
私は相槌を打ちながら、鶏唐を一つ口に入れる。
ニンニクの匂いが、鼻からプンと抜けてきた。
「その格好つけに気がつくってのが、大人って事なんかな、姉ちゃん」
そう言って、玄太が私を見る。
そうしてまた、ご飯を一口、放り込んだ 。