玄太、故郷へ帰る
……大人になるのがどんな事かなんて、一概に説明なんかできるもんか。
第一、私だって自分が大人なのかどうかなんてわからない。
そんな事、格好悪くて弟の前なんかで語れるもんですか。
昔から、玄太の方がずっと口が達者なのだ。
バカにされるに決まってる。
「……ふうん。あんたがそう思うんなら、そうなんかもね」
私は内心どこか苛々しながら、素っ気ない素振りでご飯を箸でつまむけれど、玄太はそれを案外素直に受け取った。
「うん。多分そうなんだ」
玄太が、ちょっとだけ真面目な顔になる。
私は思わず、箸が止まってしまった。
そうだ。
玄太だって玄太なりに、ここへ戻って来るにはそれなりの覚悟があったはずだ。
帰らなければいけない事情があったり、諦めなければいけない何かがあったり。
それでも言い訳をする様に自分に言い聞かせる。
『それが大人ってもんだ』
そうでもしなければ、気持ちがヨレヨレになってしまって前に進めないだろう。
……わからなくもない。
私だって多分、そうだった。