玄太、故郷へ帰る
ああ、そうだ。
まだ、締め切りまでは日があるけれど。
と、私は思い立ち、机の二番目の引き出しを開けた。
昨日の夜、封筒に入れて宛名もきちんと書いておいた、雑誌の新人賞に応募する、私の漫画。
帰りに郵便局へ寄って、出してしまおう。
今日は何だか、そんな気分だ。
私だけの特別な気持ち。
誰にも内緒で。
コツコツとこの机の上で、二番目の引き出しの中で、温めてきた私の恥ずかしい夢を、この家からこっそり羽ばたかせてしまおう。
行き先が明るいのか暗いのか、それはまだ分からないけれど。
私はその厚みのある封筒を、丁寧に慎重に鞄の中に隠した。
誰にも見つからない様に。
そうしてそれを大事に抱えて家を出る。
玄関を出ると、父と玄太が雪をかく後ろ姿が家の裏手の方に見えた。
大丈夫だ。
二人はうまくやっている。
私には、二人の姿はそんな風に見えた。
なんせ、後ろ姿がすごくよく似ている。
猫背がちで、がに股で、腕は細くて長いのに力強い。
父が何か話しかけている。
玄太が首をふりながら、肩を揺らしている。
聞き取れないけれど、二人は笑っている様だ。