玄太、故郷へ帰る
そう言ってやんわりと笑う玄太のその隣で、弥生ちゃんが私に小さく会釈をする。
大きな瞳が、私をじっと見ていた。
この視線。
私は多分、この視線が苦手なんだな。
何かをいつも待っていて、求めているような、そんな子犬みたいな目。
「何してるのよ、玄太。弥生ちゃん、お腹冷えちゃうじゃん、ねえ?」
「あ、だいじょぶです」
うっすらと灯る街灯の明かりの下で、玄太はゴソゴソと何やら雪をかきわけている。
「確か、この辺りなんだ」
「何がよ?」
「僕に、必要なもの」
必要なもの?
……ああ、必要なもの。
と、私は思い出していた。
いつか、玄太がこの川沿いに埋めていたロマンスのブリキの箱の事を。
大喜利みたいな、オチの事も。
「弥生に、見せようと思ったんだ」
玄太は、また好奇心を集めるつもりなのか?
「もう少し向こうじゃなかった? 杭が立ってるとこのさ」
「あっ、姉ちゃんよく覚えてるね。そうだ、杭だよ。杭が立ってた」
ああ、本当だ。
私、よく覚えているな。
あんなに興味のないフリをしていたのに、これでは意味がないや。