玄太、故郷へ帰る
「あっ、あ――、この杭だ。この杭」
玄太は、目印の杭を見つけた様だ。
杭は先の赤いヤツで、雪の中からかろうじて頭を出していた。
シャリ、シャリ
……用意がいい。
よく見ると玄太は、小さなシャベルまで持って来ている。
「げんちゃんの、必要なものが入ってるの?」
穴を掘る玄太の姿を見て、お腹をさすりながら、弥生ちゃんはワクワクしている様子だ。
……ああ。
箱の中身が空っぽだとも知らずに。
私は、二人に気がつかれない様に、小さな溜め息を吐く。
「うん、そうだよ。とっても大事なものだ」
そう言って相変わらず、玄太の顔は得意気だ。
シャリ、シャリ
ガリ、ガリ
ザッ……
ガ、ガ、ガリ
「あった……」
土の中から玄太が取り出したのは、やっぱり例のブリキの箱。
あの頃に比べて玄太の手が大きくなったので、一回り小さく見える。
でも、間違いない。
「たのしみだな」
「楽しみだろう」
玄太の華奢な指で、ブリキの箱は開かれる。
私は、箱の中身を知っている。
それは、空っぽという名の……
「かぎ?」