玄太、故郷へ帰る



そう、かぎ。
……かぎ?

え? 鍵?


弥生ちゃんの声に私も慌てて、弥生ちゃんの後ろから、玄太の手の平に広げられているそれを覗いてみる。


確かに、ブリキの箱には小さな鍵が一つ、静かに収まっている。
街灯の薄明かりを鈍く反射しているそれに、私は見覚えがあった。


「……家の鍵じゃん……」


「うん、そう。東京に行く時にさ、埋めたんだ」


玄太は大事そうにそれを取り出す。


「いつか、必要になると思ってね」


……ああ。
玄太が大人になった。

私はそんな事を思った。

目に見えないものばかりを追いかけていた玄太。
空っぽの箱に「好奇心」と言う名のロマンスを詰め込んでいた玄太。

その玄太が……


「すてき」


弥生ちゃんが、うっとりとした声を出す。

すてき?


「げんちゃん、すてき」


「だろう? これはね、僕から弥生と赤ちゃんへのプレゼントだよ」


「本当? げんちゃん」


「うん。二人は、これからずっと、僕にとって必要なもの」


……面倒だ。
回りくどい。

今さら、プロポーズなのだろうか。

やっぱり、玄太の面倒な性格は変わらない。



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