玄太、故郷へ帰る
そんな玄太にうっとりとしている弥生ちゃんは、きっと玄太にはぴったりな奥さんなんだろう。
二人は、お似合いだ。
私なら。
私の彼氏がこんな回りくどい事をしたのなら、鼻で笑ってしまうかもしれない。
すてき、なんて。
目を輝かせて言えないだろう。
生憎、そんな事をしてくれるかもしれない「彼氏」も、私にはいないのだけれど。
「幸せになろう」
「ありがとう、げんちゃん」
弥生ちゃんの手の平に、そっと鍵を落とす玄太。
それをギュウと握りしめ、玄太を見つめる弥生ちゃん。
ああ。
見ていられない。
背中に鳥肌が立ってきた。
今時、安っぽいドラマでもこんなシーンはない。
二人だからできるのだ。
これは、若い二人の桃色の青春の1ページだ。
凍える程に、風は冷たいけれど。
「姉ちゃん、先行くからね」
そう言う私の声も、届いているのかいないのか。
……放っておこう。
私は一人、さっさと車に戻りエンジンをかける。
体もだいぶ冷えてしまった。
指も凍えそうだ。
今夜もまた雪が降るかもしれない。
まあ、きっと明日も玄太がいるのだから、父も楽だろう。