玄太、故郷へ帰る
反論しない私をいい事に、玄太は益々得意気な顔だ。
……つまらない?
ああ、そうですか。
つまらなくて、結構。
私は空っぽの箱に、ロマンスなんか求めない。
第一、現実で忙しいのだから。
「もう行くからね」
空っぽで好奇心いっぱいの、そんなロマンスのブリキの箱を、もう一度同じ場所に埋める作業に取りかかっている弟。
私はそれに見向きもせず、さっさと一人で歩き出す。
「あっ、姉ちゃん! ちょっと待ってよ」
背中に玄太の声が追いかけて来たけれど、私は構わずに歩き続ける。
我が家へと続く、河原の土手沿いの一本道。
視線を夕暮れの空にやると、カラスが一羽、「カア」と鳴いて飛んで行った。
小さい頃、この辺りは玄太と私の遊び場だった。
土手を駆け回る玄太。
あの頃の弟は可愛いかった。
まだ変な理屈も知らなかったし、頬っぺたにニキビも作らなかった。
「姉ちゃん、歩くの早いよ」
その内、玄太が駆け寄ってくる。
息を切らして。
こうして私の後を追いかて来る所は、変わらない。
ちょっとだけ、にんまりしてしまう。
やっぱり可愛い……私の弟。