玄太、故郷へ帰る
今、私はもう、26才。
最近では、仕事も楽しくなってきた。
漫画家になりたいという夢はなかなか諦められないけれど、地味に仕事をこなしながらコツコツ夢を描くスタイルは、堅実な私の性格によく合っていると思う。
自分を追い込む事には慣れていない。
決まったレールの上を何食わぬ顔で走りながら、ジッとそこから抜け出す機会を待ち構えている。
そんな、意外とマイペースな自分の性質に、最近になって気が付いた。
相変わらず恋愛下手で彼氏もできないけれど、同じ小学校に勤めている『イケメン』の宮下先生には、時々食事に誘ってもらっている。
今の私の生活は、意外と悪くない。
……弟の玄太は、もう23才になったか。
玄太がこの家を出て、四年。
頑固な性格の玄太は、父親の反対を押し切って、この町から逃げる様に上京して行った。
『僕は詩人になる』
そう公言して。
私はそんな弟の奔放さや強さに憧れて、どこかで少し、妬んですらきたけれど、二年前、東京で玄太に会ってからは、そんな卑屈な考え方も変わった。
会わなければ、弟の存在だって妙に肥大化する。
会ってしまえば、弟はやっぱり弟なのに。