玄太、故郷へ帰る



……寒い冬のこの季節は、何故か玄太の事をよく思い出す。

玄太は冬が好きで、雪の青白い色が好きで、山から下りてくる風の匂いが好きだった。

雪が降ると、玄太は人一倍はしゃいだ。
だからだろうか。
こんな風に雪の沢山降る日は、つい耳を澄ませてしまう。


『姉ちゃん、雪! やべえよ!』

何が『やべえ』のかはわからないけれど、そう言って廊下を走る玄太の声が、聞こえてくるような気がする。

バタバタバタバタ、雪が降る日は慌ただしい。


バタバタバタバタ……


「うっわあ! 雪、やべえよ――!」


そう、雪、やべえ。
そんな、玄太の……

……玄太の?

はて。
今、一階から響いてきた聞き覚えのある声は……?

気のせいだろうか。
私の耳に、確かに振動となって聞こえてきた様な気がする。

私はもう一度、耳を澄ませてみる。


バタバタバタバタ……

廊下を、慌ただしく走る音。


「玄太!? あ、あんた、どうしたの!?」


続いて聞こえてきたのは、そんな、母の驚きの声だった。



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