碧い月夜の夢
 しかも、身長174センチもある凛々子よりも、更に10センチは高い 。

 だから、必然的にこっちを見下ろす形になっている。

 同級生の男の子達ですら、なかなか凛々子を見下ろすような人はいない。

 そんなことも、凛々子にとっては新鮮に感じられた。



「でもまぁ、今日は俺の事をちゃんと認識してくれたっていうだけでも進歩だと思っておくか。つーか、オマエの現実世界で何かいいことでもあったのか?」

「いいこと?」

「あァ。今までずっと、周りも見ねェで逃げてばかりいただろ。だけど今夜は違ったじゃねェか」



 それはそうだ。

 あの喫茶店の店員が、言ってくれた言葉。



“君なら、大丈夫”



 魔法のようなその言葉に勇気付けられたから、今夜はあの黒い影から逃げずに立ち向かおうと思う事が出来たのだ。



「まぁ何にしろ、進歩だな。それがなかったら、ずっと訳も分からずに逃げまくってただろうからな」



 しっかし、こんなにキレイな顔立ちをしているのに、どうしてこんなに口が悪いんだろう。

 夢の中のキャラクターとは言え、あたしは、こういうのがタイプだっただろうか?

 そんなことを思っていると、少年はすっと右手を差し出した。



「俺はレオン。言っておくけど、俺はオマエが造り出した 夢の産物じゃねぇよ。俺は俺、れっきとした人間だ」

「はぁ…どうも」



 つられて思わず握手を交わす。

 指ぬきグローブは皮素材のようだったが、握ってみるとその手のひらの部分は使い古した感じで、ざらざらとしていた。

 凛々子はレオンと名乗った少年を見つめる。

 夢の中に出てきたキャラクターから、こんな風にきっちりと自己紹介されたのも、生まれて初めてだ。

 しかも後半のセリフは、全く理解不能。

 いい加減もう勘弁してほしい、と、凛々子は天を仰ぐ。

 空は相変わらず真っ暗で、1つだけぽっかりと大きな満月が浮かんでいる。

 月明かりは意外と明るくて、レオンが少し右に体重をかけて腕組みしてこっちを見返しているのがはっきりと分かる。
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