碧い月夜の夢
 黒いグローブにジーンズ、そして少しよれた白いTシャツ。

 足首が少しかくれるくらいの長さの革のブーツに、同じような革素材の黒いベストを着込んでいて、勝ち気な眼差しでこっちを見ている。

 腰には、同じように皮素材で出来たホルダーのようになっているベルトを2つ付けていて、1つは工具のようなものがいくつか、もう1つには小さなナイフのようなものが収められていた。

 耳までかかるくらいの長さの、少しだけウェーブがかった黒髪は、サラサラと潮風になびいている。

 そんな凛々子の視線に気付いて、レオンは大袈裟に肩をすくめた。



「頼むからそんなアホみたいな顔すんなよ。この世界はオマエにとってただの夢でも、俺達にとっちゃ間違いなく現実で、しかも生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ。最初にこれだけは覚えておけよ?」

「………」



 とうとう、夢の中のキャラクターが勝手に暴走を始めてしまったのか。

 凛々子は一回ぎゅっと目を閉じて、そして、今度はゆっくりと開けてみる。

 だが、そこはいつものアパートの天井ではなく、変わらずに腰に手を当てて立っているレオンと灯台と、月明かりに広がる海がある。

 目、覚めないんだ…。

 と、凛々子は落胆する。



「何やってんだ?」

「……目、覚まそうと思って」

「見てて飽きないな、オマエ」



 レオンは呆れたように、深いため息をつく。



「さっき俺が言ったの、全く理解してないんだろ」



 出来る訳がない。

 同じ日本語の筈なのに、全く意味が分からなかった。

 そんな凛々子を見て、レオンはぽりぽりと頭を掻きながら、手近にあった岩に腰を下ろす。



「俺の事を認識するまでにこれだけのロスがあるんだからなぁ…説明してすぐに理解しろっつっても、多分ムリだろうな」

「認識って何よ」

「俺は最初からずっと、オマエの側にいた。オマエが気付かなかっただけなんだよ。何も見ようとしねェから」



 その言い方に少なからずムッとしたが、凛々子は他にどうすることも出来なくて、仕方なくレオンの隣に座る。



「でさ。オマエ、今の出来事全部、ただの夢だと思ってるんだろ?」



 少しだけ碧みがかった満月の月明かりが、レオンの整った顔立ちを引き立たせている。

 真っ直ぐにこっちを見つめるその瞳は、何もかもを見透かしてしまうような…それでいて、どこか憂いを秘めた、もの悲しそうな…そんな不思議な色を帯びていた。

 ついうっとり見とれてしまっていると、レオンはいきなり凛々子の額を、前髪ごとムギュッと掴む。
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