碧い月夜の夢
いつも持っているバックを肩にかけなおして、凛々子は混雑している夕方の雑踏の中を、一人で歩いている。
今日は金曜日で、会社帰りの人達は開放感に溢れ、みんな楽しそうだった。
ようやく1週間が終わり、明日からの週末をどうやって過ごそうか考えているだけで楽しいというオーラが、何の関係もない自分にまでひしひしと伝わってくる。
今年の夏は例年に比べて早く、まだ6月に入ったばかりだと言うのに、既に体感温度は真夏のようだ。
そんな中で、凛々子はいつものように薄い長袖のTシャツを着ている。
行き交う人達はそんな凛々子を気に止める様子はなかった。
無意識に左腕を押さえながらそろそろ夜のアルバイトに向かおうとした時、不意に後ろから声を掛けられた。
「安堂凛々子…さん?」
こんな雑踏の中でフルネームを呼ばれるとは思ってなかった。
流石に恥ずかしいと思いながら、凛々子はゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、同い年くらいの、少しだけ見覚えのある男性だ。
誰だろう、と、凛々子は考え込む。
「俺だよ、俺。サクライ」
「サクライ…えぇと…」
「桜井浩司。中学の時に同じクラスだった…忘れたの?」
桜井浩司は、被っていた野球帽を取りながらにっこりと微笑んだ。
そうだ。
そう言われてみたら、ようやく思い出した。
あの頃は凛々子よりも低かった身長が、今では少し見上げるくらいの高さになっている。
確か、中学2年生と3年生の時に同じクラスだった。
だが、3年生の二学期が始まった頃から、凛々子は殆ど学校には行かなかったからーー。
この桜井浩二という同級生は確か、クラスでもあまり目立たない男の子だった。
内気で大人しくて、あまり友達とも連まずに、いつも1人で通学路の道端に生えている雑草をいつまでも見ているような。
そう言えば、眼鏡をかけていたような気もするが、今かけていないところを見ると、コンタクトにでもしたのだろうか?
凛々子の頭の中で、どんどん昔の記憶が蘇ってくる。
「本当に久しぶりだね。3年…4年ぶりだったっけ?」
桜井浩司は、そんなどうでもいい事を真剣に思い出そうとしている。
今日は金曜日で、会社帰りの人達は開放感に溢れ、みんな楽しそうだった。
ようやく1週間が終わり、明日からの週末をどうやって過ごそうか考えているだけで楽しいというオーラが、何の関係もない自分にまでひしひしと伝わってくる。
今年の夏は例年に比べて早く、まだ6月に入ったばかりだと言うのに、既に体感温度は真夏のようだ。
そんな中で、凛々子はいつものように薄い長袖のTシャツを着ている。
行き交う人達はそんな凛々子を気に止める様子はなかった。
無意識に左腕を押さえながらそろそろ夜のアルバイトに向かおうとした時、不意に後ろから声を掛けられた。
「安堂凛々子…さん?」
こんな雑踏の中でフルネームを呼ばれるとは思ってなかった。
流石に恥ずかしいと思いながら、凛々子はゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、同い年くらいの、少しだけ見覚えのある男性だ。
誰だろう、と、凛々子は考え込む。
「俺だよ、俺。サクライ」
「サクライ…えぇと…」
「桜井浩司。中学の時に同じクラスだった…忘れたの?」
桜井浩司は、被っていた野球帽を取りながらにっこりと微笑んだ。
そうだ。
そう言われてみたら、ようやく思い出した。
あの頃は凛々子よりも低かった身長が、今では少し見上げるくらいの高さになっている。
確か、中学2年生と3年生の時に同じクラスだった。
だが、3年生の二学期が始まった頃から、凛々子は殆ど学校には行かなかったからーー。
この桜井浩二という同級生は確か、クラスでもあまり目立たない男の子だった。
内気で大人しくて、あまり友達とも連まずに、いつも1人で通学路の道端に生えている雑草をいつまでも見ているような。
そう言えば、眼鏡をかけていたような気もするが、今かけていないところを見ると、コンタクトにでもしたのだろうか?
凛々子の頭の中で、どんどん昔の記憶が蘇ってくる。
「本当に久しぶりだね。3年…4年ぶりだったっけ?」
桜井浩司は、そんなどうでもいい事を真剣に思い出そうとしている。