碧い月夜の夢
 さっき会った桜井浩司も、きっと今夜はカラオケボックスで歌う前にきっと、友達に凛々子と会ったとの話題で盛り上がるだろう。

 どうして、凛々子が3年生の2学期から学校に行かなくなったのか。

 あの頃の事を思い出して。

 楽しく笑いながら、また、あることないことを噂をするのが目に見えていた。

 もしここにサヤカがいたなら、きっと握りこぶしでこう言うだろう。



『言いたいヤツには言わせておけばいいのよ。ホントの事も知らないで噂だけで盛り上がってる奴等なんてバカよ、バカ!!』



 あの頃も散々、こんな風にサヤカに励まされた。

 これは後で聞いた話なのだが、実際サヤカは、勝手な噂で盛り上がっているクラスメイト全員に向かって、喰って掛かった時もあるのだそうだ。

 そうやって、幼稚園からずっと一緒だったサヤカだけは、味方でいてくれて。

 凛々子はそれを思い出して、微かに笑みを浮かべながら視線を上げて目の前に広がる景色を眺めた。

 そしてふと、思い出す。

 そう言えばここは、昨日レオンと出会った場所だ。

 あの、アルマという黒い影に追われて、そしてレオンに助けられて。

 灯台のある、あそこの崖の上まで空を飛んだんだっけ。

 何だか面白い夢だった。

 ――…あぁ、でもレオンにとっては、とても深刻な“現実”だった。

 人間はどうして眠らなきゃならないのだろうかと、また凛々子はそんなことを考えてしまう。

 睡眠が必要なのは分かっていたが、出来れば眠りたくない。

 眠らなければ、アルマに狙われる事もないだろうに。

 だが、例えずっと起きていたとしても、またいつかさっきみたいに凛々子の過去を知っている人間と関わらなくてはならない時が来る。

 ――…出来れば、そんな人間にも、2度と会いたくない。

 起きていても、寝ていて夢を見ている時でさえも。

 逃げて、逃げて、逃げて。

 もし、出来る事なら。

 誰もいない、自分だけの世界に閉じこもってしまいたかった。

 だが、実家を出て暮らしている以上、生活の為に頑張って働かなくてはならない。

 一人暮らしを始めたのも、通っていた中学がある地元から逃げたかったからだ。
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