碧い月夜の夢
「…あたし…何やってんだろ…」



 これじゃあいつか、本当に引きこもってしまう。

 こんな自分が、本当に、心の底から嫌いだった。

 凛々子は無意識に、左腕を握り締めていた。

 どのくらいボケッとしていたのか、気がつくと辺りはもう真っ暗闇で、景色は時折灯台が照らす断続的な光に合わせるように一瞬、一瞬ふっと浮かび上がるだけだった。

 凛々子は立ち上がると、ぽんぽん、と服に付いた砂を払い落としす。

 もう何もすることはないんだから、いつまでもここに居たって仕方がない。

 帰ろうと思って振り向いたその時、海岸通りを歩いていた人物と目が合った。



「……あ」



 一瞬、何て言っていいのか分からずに、凛々子は狼狽える。

 だが、その人物は、にこやかな笑顔をこっちに向けて。



「あ、今晩わ。奇遇だね、こんな場所で会うなんて」



 買い物袋を手にぶら下げたその人物は、そう言うと笑顔で会釈をした。

 サヤカとランチを食べたあの喫茶店の、眼鏡をかけた店員だ。



『君なら大丈夫』



 そう言ってくれた、あの店員。

 その言葉がなければ、昨日の夢でレオンと出会えなかったかも知れない。

 言葉のおかげで勇気を持って、あの黒い影、アルマと向き合おうと思ったから。



「あの…」



 お礼を言おうと思い、凛々子はふと思い止まる。

 この眼鏡の店員が、何のために凛々子にその言葉をかけたのか分からなかったから。

 眼鏡は、言葉に詰まっている凛々子を見て、首をかしげている。

 ――…でも。

 やっぱり、お礼が言いたい。



「ありがとうございました…昨日、大丈夫って言ってくれて…」



 うつむき加減にそう言う凛々子を見て、眼鏡は優しい笑顔を浮かべた。



「俺の言葉が、そんなに役に立った?」

「はい。魔法の言葉みたいに」



 言ってしまってから、凛々子は顔を赤らめる。

 これじゃあまるで、小さな子供みたいじゃないか。

 だけど眼鏡は、そんなことを全然気にする様子はなかった。
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