碧い月夜の夢
 どんな人だったのか聞きたい気もするが、それは今の凛々子にとっては大して重要なことでもない。

 だがきっと、テルラに紛れ込んだ人達を、レオンは今みたいに助けてくれていたんだと凛々子は思った。

 悪いのは口だけで、性格は案外優しいのかも知れない。

 そこまで考えると、クスッと笑いが込み上げてきた。



「……何だよ?」

「ふふっ、何でもないよ」



 凛々子が笑うと、レオンは不貞腐れたように後ろ頭をポリポリと掻いて。



「ったく、つくづくヘンな奴だよな、オマエ」

「ていうか、昨日からオマエ、オマエってさ、あたしには凛々子っていうちゃんとした名前があるの。あたしはちゃんとレオンって呼んでるのに、オマエなんて呼ばないでよ」

「何だよ、名前で呼んで欲しいのか?」

「………っ!?」



 そこまで言ってしまって、凛々子は赤面しながら言葉に詰まる。

 何て事を言ったんだろう?

 今の言い回し、取り方によっては『お互い名前で呼び合おうね♪』って聞こえなくもない。



「べっ…別に、どうしても名前で呼んで欲しい訳じゃ…」

「凛々子」

「はっ…はい!!」



 レオンにいきなり名前で呼ばれて、凛々子は思わず背筋を伸ばす。



「それだけ元気がありゃ、立てるな」



 そう言って、レオンは凛々子の腕を掴んで、無理矢理立ち上がらせた。



「何…?」

「新手だ」



 真剣な口調で、レオンは言った。

 嘘でしょ、と、凛々子もレオンが見ている方に視線を送る。

 その先には、確かに新手が近付いて来ていた。

 だが、その連中は。



「レオン、あの人達は、あたしの…」



 あの服装は、凛々子が中学の時の制服だった。

 大人の遊び場である繁華街に、中学生の集団が歩いている。

 しかもそれは中学3年生の時のクラスメイト達で、今日の夕方、繁華街で偶然会った桜井浩司もいた。

 あの頃と同じ、黒縁眼鏡をかけている。

 凛々子は多少身構えながら、その連中を見つめる。

 そんな凛々子を庇うような位置に立ちながら、レオンは振り返らずにこっちに声を掛けた。
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