碧い月夜の夢
「あんた達に何が分かるのよ!! 現実を知らないで、勝手な事ばかり言わないで!!」



 声の限り、叫ぶ。

 クラスメイト達の動きが止まった。

 だが、全員の指はまだ、ゆらゆらと凛々子を差している。



「確かにあたしは、人を殺してしまった…だけど、仕方なかったのよ!! どうしようもなかった…!!」



 どうしようも、なかった。

 あの時は、必死で。

 苦しくて苦しくて、もうどうしようもなくて、凛々子は胸を押さえてうずくまる。



「ごめんなさい…でも、あたしは…本当は、ちゃんと皆と一緒に学校に行きたかった…」



 涙が、地面に落ちる。

 レオンが凛々子の肩に手を掛けた。

 顔を上げると、クラスメイト達は一人、また一人と姿を消していった。

 最後に、桜井浩司がこっちをじっと見つめながら消えていく。

 あれ、と、凛々子は不思議に思う。

 他のクラスメイトは中学生のままだったのに、桜井浩司だけは、夕方会った時の、今現在の姿をしていた。



「平気か?」



 レオンが言う。

 大丈夫、と頷いて、凛々子は立ち上がる。



「頑張ったな」



 また、誰もいなくなった繁華街。

 凛々子はその光景を見渡した。

 そして、ふと気付く。

 さっき凛々子が消し去った橋の向こうの公園の場所だけが、全く違う景色に変わっていた。



「あれは…?」



 まるで荒野だ。

 砂漠のような…それでいて、ゴツゴツとした岩があちこちに転がっている。



「俺達の世界だよ」

「あれが、本当のテルラ…?」



 聞き返すと、レオンは頷いて。



「説明してやりてェんだけど、時間、だ」



 空を見上げると、明るくなりつつあった。

 凛々子がレオンを見つめると、レオンは笑顔をこっちに向けて。



「オマエに説明しても理解できねェだろうからな」

「何よそれ」

「ま、そのうち分かるさ」



 やっぱり、レオンの笑顔は、何処か可愛らしい。

 強烈な眠気に襲われながら最後に思ったのは、そんな事だった。
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