碧い月夜の夢
「凛々子。大丈夫?」



 沈んだ表情を浮かべた凛々子に、慌てた様子でサヤカは謝る。

 違うの、と言い返そうとしたが、サヤカの言葉の方が早かった。



「もしかしたらもう大丈夫かなって思ったんだけど…そうだよね…やっぱ中学の時の友達と関わりを持つの、あんたにとっちゃ、まだきついよね…」



 完全にサヤカの方が落ち込んでいる。

 凛々子は慌てて、両手をぶんぶん振って。


「あ、大丈夫だよ。何だか最近ね、そう言うの、あまり考えないのよ。あたしもそれなりに忙しいっていうか、わだかまりが消えてきたって言うか…」

「凛々子…?」



 サヤカは、顔を上げる。



「過去に起こった現実から逃げないって、少しずつ思えるようになってきたって言うか…って、何であんたが泣くのよ、サヤカ 」



 凛々子は、いきなり目を擦りながら鼻をグスグス言わせているサヤカを見て、苦笑した。



「だっ…だって…良かった、って…思っ…」

「も~…ごめんってば」



 やっぱり。

 これだけ自分の事を思ってくれる友達って、本当にありがたいなと、凛々子は思う。

 だから、今日こそは素直に、言えた。



「今までずっと…ありがとう、サヤカ」



 一瞬だけ泣き止んで凛々子を見つめ。

 サヤカは今度こそ、声を上げて泣いた。

 そんな様子を、この喫茶店の店員達はカウンターの向こうから微笑ましく見つめていて。

 凛々子にもどうしようもなく、カウンターに向かって苦笑しながら、取り敢えずサヤカの気が済むのを待つ事にした。

 ひとしきり泣いたサヤカは、何かいいことがあったんだね、と眼鏡の店員がサービスで持ってきてくれたプリンアラモードを目の前に置かれると、ようやく泣き止んで。



「あのね、桜井くんは、久しぶりに凛々子に会えて嬉しかったんだって」



 生クリームを口に運びながら、サヤカは言った。



「嬉しい?」

「……うん。あの日、もし凛々子が誘いをOKしてくれたら、友達とのカラオケをドタキャンして凛々子と少し、話をするつもりだった、って」

「ドタキャンとか…あり得ないでしょ」



 何でそこまで、と言おうとした凛々子を、サヤカは制して。
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