碧い月夜の夢
 寝ていた凛々子の隣で座っていたレオンが、手に持った小枝をもてあそびながら、じっとこっちを見ていた。

 もしかして、凛々子が寝ている間中、ずっと隣にいてくれたのだろうか?



「レオン…ねっ…寝顔、見てたの!?」

「寝てるんだから普通見るだろ、寝顔くらい」



 さも当然と言うように、レオンは平然とそんな事を言った。

 ずっと寝顔、見られてたなんて。

 両手を頬に当てて、凛々子はレオンに背を向ける。



「ま、あれだけダメージを受けたんだ、眠りこけるのも無理はねェけどな。睡眠っつうのは、あらゆる機能を休ませて回復させる力がある」



 背中越しにそんな台詞が聞こえてきて、凛々子はまた、不思議な感覚に陥った。

 夢の中で眠りこけてたなんて、何だか可笑しい。

 それにしても、そんなにダメージを受けたんだろうか。

 凛々子はそんな事を考えたが、わざわざ思い出すのはやめよう、と、考え直す。

 だがレオンは、ずっと側にいてくれたのだろうか?

 凛々子の寝顔を、見ながら…?



「何やってんだ」



 赤面した顔を隠すように両手で押さえて縮こまった凛々子に、レオンは呆れたように言った。



「ホント、見てて飽きねェな」



 そして、クスクス笑って。



「寝顔、案外子供っぽいんだな、オマエ」

「ちょっと!!」



 一発どついてやろうかと拳を振り上げた時、砂浜に何か書いてあるのに気がついた。



「何、それ?」



 木の枝を持っているところを見ると、レオンがこれを書いたらしい。

 綺麗な玉虫色に光る丸い石が置いてあり、それを中心に何やら難しそうな、複雑な図形が描かれている。



「あ、これか? これは、俺の街」

「街…?」

「あァ、いつか住みたいと思ってる、夢の設計図だ」



 昔から図形も製図もあまり得意ではなかったが、言われてみると何となくその全貌が分かる気がした。

 凛々子の脳裏に一瞬、浮かび上がる映像。

 緑と水と、何処までも続く青く晴れ渡った空。

 そして、街を行き交うたくさんのテルラの人達。

 畑仕事をする人や、機織りをする人。

 子ども達は街路樹の隙間を無邪気に走り回り、日が暮れる頃に家族で夕ご飯を食べて、暖かい布団で眠る。

 凛々子にとっては何の違和感もない、こんな光景。
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