碧い月夜の夢
「あ…あれ?」



 頬を伝う暖かいものに、凛々子は手を触れた。



「何で泣いてんだよ?」



 木の枝を向こう側に放り投げ、レオンは訳わかんねェなと、呆れたように凛々子を見た。

 アルマに襲われるのが当たり前だという、レオンの世界。

 この設計図と、そして今凛々子が見た映像が、きっとレオンの夢なんだ。

 最初に会った時からずっと小生意気で、口が悪くて、人のことをバカにしている、このキレイな顔立ちの少年は。

 こんなに綺麗で素敵な街を夢見る事が出来る人間なんだ。

 そう思いながら顔を上げると、レオンと真正面から視線が合った。



「きっと、素敵な街を作れるよ」

「………」



 レオンは、真っ直ぐにこっちを見つめた。

 吸い込まれそうなその視線に捕らえられて、凛々子は目を逸らす事が出来ない。

 レオンの唇が、少し動く。

 それだけで、凛々子は少し、ドキッとした。

 ……だが。



「バカか、オマエは」

「………は?」



 一瞬、耳を疑う凛々子。

 今の、どこらへんにおバカな要素があったのかすらさえ、凛々子には分からない。

 ひたすらキョトンとしていると、レオンは大袈裟に溜め息をついて、凛々子に背を向けた。



「前にも言ったろ。あんなもの造っても、どうせアルマが片っ端から壊しちまうからな、だからテルラの人間はみんな、やる気無くしちまって」

「ウソだ」

「………はァ!?」



 真っ向から凛々子が否定したので、今度はレオンが素っ頓狂な声を上げてこっちを振り返る。

 レオンが背中を向けている間中、凛々子には見えていた。

 不毛の大地の真ん中に、一本、そんなに大きくはないが、しっかりと根を張っている木が立っている。

 その側で、腰にぶら下げた工具を使って、レオンが1人で街を造っている後ろ姿を。

 さっき見たあの夢の設計図に例えると、きっとあの一本の木が、街の中心…玉虫色の石が置いてある場所なのだ。

 所詮1人での作業だから、ほんの少しずつしか、造れないけれど。

 最初にレオンと出会った時、自己紹介して差し出された右手のグローブが何故あんなに擦り切れていたのか、今は、凛々子にはよく理解出来た。

 レオンはたった1人で、街を造っている。



「あたしには分かるよ…レオン」

「オマエ…」



 レオンはそっと、凛々子の両肩に手を置いた。

 見上げると、すぐ近くに、レオンの顔がある。

 近くで見ると、本当に見とれてしまう。

 視線を、逸らす事が出来ない。
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