碧い月夜の夢
 だが次の瞬間、くるりと回れ右をさせられた。


「………へっ?」



 かなり間抜けな声を出してしまってから 、凛々子は目を見張る。

 灯台がある崖の先の空間。

 この前の公園を消した時と同じように、そこだけが全く違う景色になったままだった。

 まるで絵画をそこだけ切り取ったように浮かび上がるその景色は、前にレオンが言っていたテルラだ。

 そこは、砂漠と荒野とゴツゴツした岩が転がる、まるで絵に描いたような不毛な土地。

 ――…本当に、こんな場所に人が住めるのか、凛々子には疑問だった。



「充分体力が回復したんだ、あれ、どうにかして塞げないか?」



 凛々子の後ろに立ったまま、レオンは言った。



「塞げって…どうやって?」

「分からない。だけど、あんな大きな穴が開いたままじゃ、奴らが喜んで大量に押し寄せて来るからな」



 確かに。

 アルマにとって凛々子は、邪魔な存在でしかない。



「ん~…」



 凛々子は腕組みをしながら、考え込む。

 レオンにもやり方が分からないのに、凛々子が分かる訳がない。

 せっかくいい雰囲気になっていたのに、と、凛々子は残念に思ったが。

 ――…あ、いや、あたしったら何を期待しているんだろう。

 再び赤面しそうになった時、レオンが言う。



「切実な問題なんだ、しっかりしてくれよ」

「どうして切実なのよ」 



 思わず聞いてしまってから、凛々子は少し後悔した。

 また、あの目。

 哀しそうな、憂いを帯びたレオンの瞳の色。

 もしかして、聞いてはいけない質問だったのだろうか。

 ――…でも。



「ねぇ、レオン。いつもあたしを助けてくれたよね。だから、あたしもレオンを助けたいの。ちゃんと聞くから…理解するから、教えてくれないかな、レオンが住んでいるテルラって言う世界の話を」



 精一杯、本心から言った。

 だがレオンは、横を向いたまま少し凛々子から離れた。

 その横顔が、凛々子の質問には答える気はない、と言っているようで。



「レオン…」



 それ以上は何も言えず、何となくレオンの表情を直視する事が出来ずに、凛々子は開いたままの空間を見つめた。

 そして、ふと目を凝らす。

 テルラから、この凛々子の夢の空間に、何かが入ってくる。

 いや、それが何なのか、考える間でもない。
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