碧い月夜の夢
 あれは、凛々子が今までに何度も体験している、アルマそのものが放つ独特の恐怖感そのものだった。



「寄生虫みたいなもんだな…」

「寄生虫? テルラの人たちが?」

「あァ。テルラは、見た通りの不毛な土地だ。そこへ凛々子みたいな人間が空間を繋いでテルラに潤った土地を与えてくれる。テルラの住人達は、その潤った土地を蝕んで行くんだ」



 凛々子は懸命に、頭の中でレオンの言葉を理解しようとしていた。

 テルラの人間は、凛々子の夢の中であるこの場所に、寄生する。

 よく考えると、合理的ではある。

 テルラのような不毛な大地を、果てしない労力を使って潤すよりは、凛々子のような人間が降って湧いたように作り出すこの場所に住んだ方が、遥かに楽だ。

 すると、見てみろ、とレオンは窓の外をアゴで示した。

 あの穴から人間が入ってくるにつれて、 穴がどんどん大きくなっていく。

 それを見た途端、激しい頭痛が凛々子を襲った。

 思わず呻いて、頭を押さえる。



「あいつらは、凛々子がこの世界にとって“異質なもの”だっていう感覚がねェんだ。アルマに全てを破壊されて、モノを作っても作っても壊されて…いつの間にか、あぁなっちまった」




 “異質なもの”。

 レオンが言った言葉に、凛々子の胸の奥が、ちくりと痛む。

 まだ月明かりは明るい。

 そうは言うものの、店の中は薄暗かった。

 それでも凛々子は頭を押さえながら、テルラの人間達を直視する。

 彼等は、身体の大きさで、大人と子供の判別くらいは出来る。

 だが、髪型も服装もみんな同じに見えた。

 あの人達もテルラの人間だと言う割に、レオンのように、個性というものが全くない。

 まるで、のっぺらぼうの集団のようだった。

 ファッションが大好きなサヤカがこれを見たら、きっと全身鳥肌どころではない、有り得ない、とか言いながら片っ端からカラフルな色の付いた洋服に着替えさせるに違いない。

 だが、そののっぺらぼう集団が増えるにつれ、頭痛は酷くなる。

 そうか、と、凛々子は納得した。

 この夢を見始めてからずっと悩まされてきた頭痛の原因は、これだったのか。

 テルラの人間が、凛々子の造り出す空間を、次々に蝕んでいるから。

 それならそうと、やっぱり最初に聞いておけば良かった、と、凛々子は思う。
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