碧い月夜の夢
「でも…レオンは…?」



 レオンもテルラの住人のはず。

 だけどレオンは、のっぺらぼうではない。

 ちゃんとした個性を持った一人の人間だ。

 どうしてレオンだけが。



「テルラの住人にとっちゃ、俺は一番邪魔な敵って事になるな。そうだなぁ、アルマよりも嫌われてんじゃねぇかな、俺」



 言葉は明るいが、その目は全然笑っていない。

 のっぺらぼう集団を険しい目付きで睨み付けながら、レオンは言った。



「だってよ、テルラの人間にとっちゃ凛々子は大事なお客さんなんだよ。この喫茶店に例えれば、お金を持ってきてくれる大事なお客だ。だが俺は、そんな大事なお客を、店から追い払っちまうんだからな」



 ようやく少し、レオンの口調が元に戻ってきた。

 だけど凛々子にはそれが悲しすぎて、レオンにかける言葉が思い浮かばない。

 テルラと凛々子の意識の繋がりを断ち切るという、凛々子にとっては救いであるはずの、レオンの行動。

 それが、レオンにとっては故郷の同胞から、忌み嫌われる行為だったなんて。

 凛々子はこの世界では、異質なもの。

 それを元に戻そうとしているだけなのに。



「でもレオンにとっては、ここが故郷なんでしょ? 家族は?」

「俺の家族は、アルマに消された。親父もお袋も、弟も妹も、まとめて、な」



 凛々子は、ぐっと唇を噛み締めた。

 ……ここで、泣いてはいけない。

 ここで泣いたら、これだけ頑張っているレオンに失礼だ。

 悲しいけれど、これも、凛々子のあの事件と同じように、起こってしまった現実なのだから。

 それでもレオンはその事実をちゃんと受け入れて 、自分の意思で生きている。

 そんなレオンに、何もかもから逃げてばかりいる凛々子が同情しても、何にも生まれない。

 どっちかというと、凛々子はテルラの人達に、似ているんだ。

 だから、こんな風にテルラと繋がってしまったのかも知れない。

 そう思い、凛々子は再び、ぐっと奥歯を噛み締めた。

 だがレオンは、苦笑して。



「だァから、んな顔すんなって。オマエは何も悪くねェよ。こうなっちまったものは、仕方がねェんだ……ただ、俺が本当に許せないのは」



 そこで言葉を区切り、レオンはまた、窓の外を見つめた。



「全てを関係ない人間の頭の中で済まそうなんて考えてる、テルラの連中だ」



 レオンの言う事も分かる。
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