碧い月夜の夢
 テルラの人間達は今も増え続け、このままここにいたらきっと、こっちの身も危ない。

 いや、あたしだけならいい。

 ここには、レオンがいるのに。

 だけど、レオンは凛々子を見ようともせず、かといって逃げようともしない。

 アルマはテルラを破壊しようとしていて、テルラの住人は凛々子の夢の世界を侵食しようとしている。

 アルマに捕まったら、もう2度と夢から覚めなくなる。

 そして、テルラの住人達に凛々子の夢の世界を侵食されたら、自分の精神が崩壊する…。

 それだけならいい。

 だけど、レオンは?

 たった1人でアルマと戦い、自分の同胞からも敵視されて。

 それでもレオンは、ああやって街を造ろうとしているだけではなく。

 凛々子まで、助けようとしてくれている。

 それなのに自分は一体、何をしているんだろう?

 何にも、出来なくて。



『何やってんのよ、しっかりしなさいよ!!』



 一度だけ、サヤカに殴られた事があった。

 いつだったか、まだ高校生の時。

 その時も喫茶店で、2人で話をしながらジュースを飲んでいた。

 とは言え、その頃はまだ話がまともに出来る状態ではなく、いつもサヤカが一方的に凛々子を連れ出して、一方的に喋りまくるという構図が、いつもの様子だった。

 どうしてこの女は、いちいちあたしに構うのか。

 確かに幼なじみで家は近いが、一緒の高校に通っている訳でもないのに、どうして。

 たまらなく、サヤカの事がウザい。

 放っておいて欲しい。

 そんな時、思わず、口を突いて出てしまったのだ。



「死にたい」



 次の瞬間、目の前にあったテーブルが物凄い音を立てて倒れ、それと一緒にジュースが入ったグラスも割れた。

 そして、怒鳴られたのだ。



『あんたがどんなにあたしの事ウザいとか思っててもね、あたしはあんたを投げ出したりしないからね!!』



 無様に床に転げ落ちて、凛々子は頬を押さえながら、サヤカを見上げる。

 それと同じように、店にいたお客さんも店員も、何事かとこっちの方を見つめていて。



『あたし…もっとあんたと、絆みたいなので繋がってるって思ってた。二度とそんな事言ったら、本当に怒るから』



 どうして今、こんな事を思い出したんだろう。
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