碧い月夜の夢
 本当に、一人じゃなかった。

 ちゃんと周りを見ていれば、簡単に分かる事だったのに。

 でも、今更でも、ちゃんと教えてもらって良かった。

 何もかもから、逃げようとしていた凛々子。

 あの夢の中のように、目に見えない黒い影に追いかけられるままに。

 だが今は違う。

 その黒い影が何なのか、ちゃんと見極められるようになったのだ。

 逃げないで、向き合えるように。

 ――…レオンのおかげで。



「安堂さん?」



 黙り込んでしまった凛々子に、浩二は呼び掛ける。

 凛々子は我に返って。



「ごめん、ちょっと考え事…」

「大丈夫?」

「平気」

「俺、嬉しかったんだ。この前会った時、安堂さんが元気そうだったから。だから、今だったら、ちゃんと謝れるかなって…つい誘っちゃったけど、後でよく考えたら、迷惑な誘い方だったよなぁ…バカだな、俺は」



 浩二はそう言って、自分の頭を叩いた。

 凛々子は、クスッと笑って。



「今は、何をやっているの?」

「うん、今は地元の大学に通ってるよ。生物学を学んでるんだ」



 へぇ、と、凛々子は感心する。

 昔からそういうの得意だったからなぁ、と、素直に納得も出来た。

 そして、凛々子自身、こうやって昔のクラスメイトと普通に会話出来る事が新鮮であり、嬉しくもあった。



「頑張ってるんだね」

「ははは、安堂さんだって、ちゃんと自立して頑張ってるでしょ」

「あたしはまだまだだよ。でもここ最近ね、やっと一歩前に進み出したような気がするの」




 あの事件から、やっと前に。

 今では、きっかけをくれたあの夢に、感謝すら覚えている。

 凛々子は、レオンが住んでいる世界…テルラの事を思い出していた。

 あの不毛な土地で、テルラの人間達は、永久に居なくならないアルマに常に怯え、凛々子のように精神的に繋がった人間の世界を蝕みながら、生きている。

 ……でも、テルラの人達は、それしか生きる道はないのだろうか。

 レオンは、そんなテルラの人間達が許せない、と言っていたが。

 でも本当に、彼らが生きていく為の解決の道は、それだけなのか。

 そもそも、テルラにとってアルマとは、何なのか。




「一歩前に、か。そうだね、生き物ってみんな、頑張って前に進んでいるよね」



 凛々子が考え込んでいると、浩司は言った。



「生まれてきて、何も意味のない生き物なんていないんだよ。皆、何かを壊して、何かを作りながら生きているんだから」



 凛々子は顔を上げた。
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