碧い月夜の夢
 こんなにボロボロになってまで、たった一人で、戦っているレオン。

 時間という定義のないこの世界で、永遠に、いつまでも続く戦い。

 でも、もしかしたら。



「凛々子」



 レオンに呼び掛けられて、凛々子は閉じていた目を開けた。



「どうやってここに来たんだ? テルラとの繋がりは、完全に断ちきれたと思ってたんだけどな」

「魔法の言葉のおかげ、かな」



 悠が言っていた、原点に戻る、と言うこと。

 それを言うと、レオンはタンクトップの凛々子の腕に、視線を落とす。

 さらけ出された傷跡を見て、レオンは少しだけ、眉をひそめた。



「オマエ…」

「大丈夫よ、これくらい」



 醜い傷跡をさらけ出しても、平気だ。

 たかがこんな傷、この世界に比べれば、ほんの些細な事だ。

 そんなことよりもレオンに、伝えなくてはいけない事がある。

 凛々子はぐいっと、レオンに近付いた。



「レオン、もしかしたら、ね」



 言いかけた時、また突風が凛々子とレオンを貫いた。

 驚いて目を閉じた次の瞬間、また、周りの景色が反転する。

 凛々子とレオンは、手を繋いだまま立ち上がる。

 ここは、公園だ。

 あの事件があった公園。

 何が起こったのかと、呆然と立ち尽くす凛々子の手を握り締めて、レオンは声を低くする。



「怯むな。これはもう、オマエの夢の中の世界じゃない。アルマが造り出した幻影だ」

「うん」



 分かっている。

 公園の景色は、凛々子の記憶の中のものと微妙に違う。

 遊具と遊具の位置関係も、その色彩も。

 アルマが知っている、凛々子の弱点。

 それにしては、あまりにも拙すぎる。

 子供だましだ。



「また、あたしに精神的ダメージを与えたいだけかも知れないけど」



 勝ち気な笑顔を浮かべ、凛々子は呟いた。



「おあいにく様。こんなの、もうあたしには効かない」



 そう言った時、遊具の影から、あの時の中年の男が姿を現した。

 それも、一人じゃない。

 何人も何人も、数え切れないほど。

 一人ひとりが、あの時と同じようにナイフを持っている。

 凛々子はごくりと唾を飲み込み、両手で握り拳を作りながら中年の男の集団と対峙する。

 相変わらず、男は下卑た笑いを浮かべていた。

 そして、ゆらゆらと揺れながら、凛々子の方へにじり寄って来る。



「よォ…くも、俺を、殺して…くれた、なぁぁっ!!」



 中年の男の集団は、一斉に、そう叫んだ。
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