碧い月夜の夢
 その叫びを聞いて、気丈に振る舞ってはいるが、凛々子の足は無意識にガクガクと震えている。

 だが、レオンが凛々子を背中に庇った。



「そんなもん、俺には関係ねェよ!!」



 そう言って、レオンは腰に巻き付けた皮ベルトから、ナイフを取り出す。



「レオン!?」

「今までもさ、武器で戦おうと思ってたんだけどな。オマエのトラウマがナイフだったから、今まで使わなかった」



 それを聞いて、凛々子の身体の震えが止まった。

 そんな所にまで、気を使ってくれていたんだ。

 全く、この人は何処まで優しいんだろう。



「もう大丈夫だな?」

「当たり前よ」



 振り返ってそう聞くレオンに、凛々子は力強く頷いた。

 それを見て、レオンは中年の男の集団に向かって、一気にナイフを振り上げた。

 目の前にいた何人かのアルマが、一瞬で消え失せる。

 それを合図に、アルマは一斉にこっちに向かって襲い掛かってきた。

 レオンは凛々子を庇いながら、次々にアルマを倒して行く。

 だが、この集団と一人で戦うには、多勢に無勢。

 ただでさえ、レオンは傷付いている。

 どうしたらいい?

 アルマの集団を避けながら、凛々子は考えを巡らせた。

 ここは、アルマが造り出した幻影。

 所詮、ニセモノだ。

 凛々子は頭の中でイメージを思い描く。

 凛々子の現実世界の、一番好きな風景を。

 レオンと最初に出会った、あの浜辺を。

 目を閉じて、心を開放する。


 ――…そしてまた、世界が反転した。



☆  ☆  ☆ 



 気が付けば、レオンと最初に出会った砂浜だった。

 見渡せば、ずっと続く綺麗な砂浜と、夜の海。

 空にはいつものように、碧みがかった満月が浮かんでいる。



「何てヤツだよ」



 皮ベルトににナイフをしまって、レオンはため息混じりに呟いた。

 呆れたのではなく、感嘆しているのだ。



「どんだけパワーアップしてんだ、オマエ」

「だって、あのままじゃレオンが…」

「……全く…俺の事なんか気にしなくても…」



 レオンは言いながら凛々子を優しい眼差しで見つめ、ぽんぽん、と頭を撫でてくれて。



「俺はオマエが…心配なんだよ」



 潮風に髪をなびかせながら、レオンは小さく言った。

 波は穏やか、辺りは今のところ、静かで落ち着いている。

 月明かりが海面を照らし、それだけでお互いの表情まで見ることが出来た。
< 65 / 77 >

この作品をシェア

pagetop