碧い月夜の夢
「あっ…で、でも、ここってさ、アルマが造り出した場所じゃないよね? ここはあたしの…」



 何だか照れ臭くなって、凛々子は一歩レオンから離れ、景色を眺めながら言った。

 凛々子の後ろに立って、同じように景色を見つめるレオン。



「あァ、ここは凛々子が造り出した世界だよ。好きなんだろ、この景色が」



 そう聞かれて、凛々子は頷く。

 本当に、ここは凛々子が一番落ち着く場所だ。

 緩くカーブを描いた海岸線と、それを縁取るような白波。

 海岸沿いに植えられた街路樹と、その向こうに見える青い屋根、白い壁の喫茶店。

 小高い崖上の灯台から眺めるこの景色は最高だ。

 それに、ここはレオンと最初に出会った場所であり、レオンが想い描いている夢を知った場所。

 だから尚更、大切に思う。



「俺もここ、気に入ってる」



 静かに、レオンが言った。

 後ろから、凛々子を抱き締めて。



「テルラと完全に断ちきれた人間が戻ってきたのは、初めてだよ。それに今またこうやって、自分の世界を造り出すなんてな…本当に、強いな、凛々子は」

「……そんなこと…」



 身動き出来ずに、凛々子は俯く。

 顔が見えないのが、せめてもの救いだ。

 こんなに真っ赤な顔をしていたら、きっとレオンは大笑いするだろう。

 だがレオンは、耳元で囁く。



「もう、この景色を見れないと思ってた…また見せてくれて、ありがとな」



 そんなレオンの言葉が、凛々子は本当に嬉しかった。

 元々強かった訳ではない。

 凛々子が何故こんなに強くなれたのか。

 心の中では、もう、答えは出ている。

 だから、レオンを助けたいと思った。



「ねぇ、レオン」



 海を眺めたまま、凛々子はレオンに聞いた。



「レオンの故郷…テルラって、前はどんな場所だったの?」

「…テルラは昔、今よりも少しは潤った大地だった」



 凛々子の世界ほどじゃねェけどな、と、少し懐かしむように、レオンは言った。

 今のように不毛な大地ではなく、前はもっと草木が繁り、僅かだか作物も育てる事だって出来た。

 テルラの人間は、そんな大地で細々と暮らしていたのだ。

 だがいつからかアルマが現れて、穏やかな日々は終わる。

 太刀打ち出来ないその存在から、テルラの人間達は逃げ続けた。

 そして、気が付いたら自分達もアルマと同じように、凛々子のような人間が造り出す世界を侵食するようになって。

 レオンの話を聞きながら、凛々子にはその光景が目に浮かぶようだった。

 テルラの人間達もまた、逃げてしまったのだ。

 何も造り出そうとせずに、アルマと向き合おうともせず、楽に自分を守る為に。

 今なら、凛々子が何故このテルラと夢で繋がったのか、よく理解することが出来る。

 テルラの人々と自分は、まるで同じだった。

 だが生き物の本質は、破壊と創造。

 自分達の世界が壊れてしまっても、また創り出せばいい。それが出来るのは、人間だけなのだ。
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