碧い月夜の夢
「何を感心してんだよ、早く逃げろ。じゃなきゃソッコーで消されるぜ」
夜の空は暗くて、その声の持ち主の姿を見ることは出来ない。
だが、男の声だ。
少し甲高い、凛々子と同じか、下手をすると凛々子よりも年下のような、若い男の声。
「いいか、ぜんっぜん理解出来てないようだから、もう1度だけ言うぞ」
しかも、だんだんイラついたように吐くセリフは、物凄く口が悪い。
どうしてこんなキャラクターが自分の夢の中に出てくるのか、凛々子は不思議に思っていた。
だが気が付くと、黒い影はほんのすぐ近くまで迫っている。
そこで初めて、若い男の声音が焦りの色を帯びた。
「逃げろっつってんだろ!!」
黒い影の集団から、こっちに向かって手が延びてくる。
いや、果たしてそれが手なのかどうかも分からない。
とにかく黒い何かが凛々子に向かって延びてきて、追い討ちをかけるような男の“逃げろ!!”という声に弾かれるように、くるりと回れ右をして走り出す。
そう言えば、あの声はさっき何て言った?
消される、とか…?
まさかそんな事はないと思う反面、やっぱりどうしてもあの黒い影の恐怖には勝てなかった。
走っていて、凛々子はふと気付く。
あの喫茶店の店員がくれた魔法の言葉のおかげなのか、今夜は夢の中でも、身体が思うように動いてくれる。
ずっとやっていたバスケのおかげで、運動神経だけは人並み以上だと自信がある凛々子は、こんなに思うように走れるだけでも儲け物だと思う。
それにしても、この恐い夢シリーズの中で初めて出てきたあのキャラクターは誰なんだろう、と凛々子は走りながら考えた。
走って、走って。
海岸に沿って、全力で走って。
さすがにここまで来たら大丈夫かなと、後ろを振り返る。
だが、黒い影は全然諦める様子はなく、しっかりと凛々子を追い詰めるようにじわじわと迫ってきて。
とうとう、灯台がある崖の下まで追い詰められてしまう。
凛々子は崖を背にして、黒い影を見つめ。
「あたしは、大丈夫」
声に出してそう呟くと、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
これが夢であることを、ちゃんと認識している。
果たして、夢を夢と認識しながら見ている人間がどのくらいいるのかは分からないけれど。
夜の空は暗くて、その声の持ち主の姿を見ることは出来ない。
だが、男の声だ。
少し甲高い、凛々子と同じか、下手をすると凛々子よりも年下のような、若い男の声。
「いいか、ぜんっぜん理解出来てないようだから、もう1度だけ言うぞ」
しかも、だんだんイラついたように吐くセリフは、物凄く口が悪い。
どうしてこんなキャラクターが自分の夢の中に出てくるのか、凛々子は不思議に思っていた。
だが気が付くと、黒い影はほんのすぐ近くまで迫っている。
そこで初めて、若い男の声音が焦りの色を帯びた。
「逃げろっつってんだろ!!」
黒い影の集団から、こっちに向かって手が延びてくる。
いや、果たしてそれが手なのかどうかも分からない。
とにかく黒い何かが凛々子に向かって延びてきて、追い討ちをかけるような男の“逃げろ!!”という声に弾かれるように、くるりと回れ右をして走り出す。
そう言えば、あの声はさっき何て言った?
消される、とか…?
まさかそんな事はないと思う反面、やっぱりどうしてもあの黒い影の恐怖には勝てなかった。
走っていて、凛々子はふと気付く。
あの喫茶店の店員がくれた魔法の言葉のおかげなのか、今夜は夢の中でも、身体が思うように動いてくれる。
ずっとやっていたバスケのおかげで、運動神経だけは人並み以上だと自信がある凛々子は、こんなに思うように走れるだけでも儲け物だと思う。
それにしても、この恐い夢シリーズの中で初めて出てきたあのキャラクターは誰なんだろう、と凛々子は走りながら考えた。
走って、走って。
海岸に沿って、全力で走って。
さすがにここまで来たら大丈夫かなと、後ろを振り返る。
だが、黒い影は全然諦める様子はなく、しっかりと凛々子を追い詰めるようにじわじわと迫ってきて。
とうとう、灯台がある崖の下まで追い詰められてしまう。
凛々子は崖を背にして、黒い影を見つめ。
「あたしは、大丈夫」
声に出してそう呟くと、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
これが夢であることを、ちゃんと認識している。
果たして、夢を夢と認識しながら見ている人間がどのくらいいるのかは分からないけれど。