1page story
三ツ星ホテルのエントランスをしゃなりしゃなり歩く男女。
純白のスーツを身に纏った女性と、
肌触りの良さそうな高級スーツを着こなした男性。
通りすがる人々が振り返るほど、独特のオーラを身に纏っている。
2人はラウンジ最奥のテーブルに静かに腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
「アールグレイTWO、ミネラルウォーターONE、プリ~ズ♪」
「……畏まりました」
注文はあっさりと女性が勝手に決めてしまった。
女性がクラッチバックから
高級感のある総レースの扇子を取り出し、
優雅に扇ぎ始めると、
注文の品がテーブルの上に置かれた。
すると、
「先日のDinner、楽しかったですわね」
「……そうですね」
「Sorry…その香水、どちらの?」
「……イタリアの物ですが…」
「Italy…あなたセンスがNo goodね」
「ッ?!……あの、とても良い香りがしますね」
「あら、You know?私のは当然、おフランスですわ♪」
誇らかに『おフランス』製と口にするが、
その香りは刺激臭に近い。
「んッ!?」
テーブルの横を通り過ぎる店員でさえ、
息を止めるほど。…殺人兵器並みのようだ。
その後30分もの間、何とも言えぬ会話が繰り広げられ、
「貴也さん、どうなの?」
「………マミー?……」
男は一言だけ発して、頭を振った。
男が初めて発した言葉が『マミー』
それを裏付けるように…。
「そうね、マミーもそう思うわ。あなた、Meager faceね」
扇子で不適に微笑む表情を隠しているが、
もはや、存在自体が問題である。
殆ど初対面に近い人間に対して使う言葉?
それに何?! 今どき『マミー』って!
呆れて二の句が告げない。
目の前に座る男女。
私のお見合い相手とその母親。
大企業の御曹司と聞いて
我慢しようとしたけど、ホント最悪。
こんなクレイジー親子、こっちからお断りよ!!
私は勢いよく席を立ち、
「この話、無かった事に!!」
キッと睨みを効かせて、その場を後にした。
~Fin~