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「みんな、大きな声で~ハイッ」
『アンダー ザ スプレッディング チェスナット トゥリー…… 』
若い男のピアノの伴奏に合わせて、
幼児教室に通う子供達が大きな声で
“大きな栗の木の下で”を歌い始めた。
毎月第2日曜日に開催される無料教室。
今日も元気な子供達の声が部屋中に響き渡る。
20分程のリトミックを行い、
後半は目と手の協応を兼ねての制作時間。
「今日は、先生がず~っと前に海で拾った綺麗な石を使って、壁飾りを作るよ?」
『せんせ~い、これなんていういし?』
「これはねえ、何だろうね?メノウかな?」
『めのう?』
「そう、水磨礫の一種だね。ゴロゴロ転がってゴッツンコしてるうちに丸くなったんだよ」
『へえ~』
子供達は目を輝かせ、
タオルの上に置かれた石を選び始めた。
男は1人1人に声を掛けながら巡回する。
……何だかワクワクする…初めてだ、
こんな気分…凄く気持ちが良い……
制作開始から20分程して…。
「そろそろ時間だよ。みんな出来たかなあ?」
『せんせい、もうちょっと!!』
男は少し大きな声で呼び掛けた。
すると、焦りながら最後の仕上げをする男の子。
“ゆっくりでいいからね”と
男は優しく声を掛け、片付けを始める。
予め用意された木製パネルにボンドで石を付けるだけ。
それだけなのに、
子供達はそれぞれに個性のある壁飾りを作り上げた。
『せんせい!こののこったいし、もらってもいい?』
「うん、良いよ。好きなだけ持って帰りな」
『やったあ!!たからものにしようっと』
男が笑顔で答えると、
女の子は満面の笑みでポシェットの中から
パッチワークで出来たポーチを取り出し、
嬉しそうにボクを仕舞い込んだ。
“たからもの”
ボクは心の底から嬉しくなった。
いつも部屋の片隅で
元気な子供達の声を聞くのも悪くないけど、
今日からは冷たい箱の家じゃ無く、
温かくて柔らかいおウチになりそうだ!!
~FIN~