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「今日は凄いツイテたねぇ」
「…だな」
「まさか、創業10周年セールをやってるなんてね」
「ホントだな。ってか、それにしても凄い量だな。こんなに買って何を作るんだよ」
「ん~?」
交際3年目の俺ら。結婚も視野に入れ、半年前から同棲を始めた。
お互い仕事をしているから家事分担は当たり前なのだが。
「ねぇ、しりとりして負けた方が夕食係ね?」
「……またかよ」
「ね?いいでしょ?ん~じゃあねぇ」
彼女は人差し指を口元にあて、思考開始。
俺はそんな彼女を横目で見ながら自宅へと車を走らせる。
「やっぱり最初は、し・り・と・り♪」
「り?……りす」
「すずめ!!」
毎度の事、強制的にしりとり開始。
そして、彼女は上機嫌。
5分程、続けていると
「ん~“ち”ねぇ……あっ!チーズ!!」
「頭蓋骨」
「つ?つ、つ、……つみき!!」
「き?……兄弟」
「い?じゃ、従兄弟!!」
「こ……こ……恋人?」
「と?と、と、と……」
自宅がすぐそこまで迫っているというのに、彼女は止めようとしない。
まぁ、いつもの事だが。
「ん、どうした?降参か?」
「違ッ!待って。“と”でしょう?ん~“と”……あっ、トマト!!」
「はっ?俺も“と”かよ。ん~」
さすがにネタが尽きて来たか?
時計に視線を向けると、午後6時15分。
「あっ!!時計があったじゃん♪」
「時計?ん~“い”ねぇ、また“い”かぁ」
彼女が考え込んでいる間に、アパートの駐車場に到着。
すると、
「生ける屍!!」
「はぁ?それっていいのかよ?!」
「OKでしょ。ちゃんと“い”だし♪」
満足そうな彼女。しかも、したり顔で。
「自宅に到着したから周ちゃんの負けね?」
「………」
やっぱりな、そうだと思ったよ。
彼女は料理が大の苦手。
何かにつけてしたがらない。
しりとりの負けって“ん”じゃ無かったっけ?
自宅到着が『負け』って。
しかも、必ず、俺が最後に。
でも、そんな彼女を好きになってしまった男の弱み。
“生ける屍”とは……俺の事だな。
~FIN~