1page story
結婚して3年。
漸く念願のマイホームを手に入れ、新居に越して半年。
私は日課のようにリビングの出窓からお隣の庭先を眺め…
女性の姿を確認し、ひざ掛けを持ってお隣の家へ向かう。
10月に入り、少しずつ移りゆく秋空の下で…
「マリさん、今日も良いですか?」
「えぇ、どうぞ」
庭に手作りされたウッドデッキで大きなお腹を時より撫でながら、
彼女は毎日のように作り物をしている。
「寒く無いですか?」
「えぇ、大丈夫よ」
彼女は優しく微笑むが、
流石に妊婦の身体で長時間外に居ては身体が冷えてしまう。
私はさり気なくひざ掛けを肩にそっと掛けた。
「ありがとう。あっ、そうそうこの間、主人がブルボン種の珈琲を送って来たの。良かったら貰って?」
「えっ、でも…」
「この身体じゃ珈琲は…ね?」
彼女のご主人は世界的に有名な山岳フォトグラファー。
“ブルボン種”を送って来たという事は、今頃アラビア半島の辺り?
「連絡は…まだ?」
「えぇ…まだ」
彼女は柔和な眼差しで紅い毛糸でニット帽を編んでいる。
旦那さんは彼女の妊娠発覚前に海外へと行ったきり。
携帯電話も持たず、連絡は一方通行の小包のみ。
「それ、旦那さんのですか?」
「えぇ、山は寒いから…」
「先日のは?」
「もう出来上がってるわ。見てみる?」
「是非!!」
彼女はお手製のケースから小さな巾着を取り出した。
それは、旦那さんが愛用している白金懐炉の専用ケースの替え袋。
手作りで綺麗に刺繍まで施してある。彼女の旦那さんへの愛情が溢れていた。
1時間程話をして…
「マリさん、そろそろ…」
「そうね。私がここに居ても、あの人は帰って来ないわよね?」
少し寂しげな表情を浮かべながら片づけを始めた。
すると、
「マリ!!ただいま!!」
声がして来た方へ目を向けると、
フェンスの向こうに紅いニット帽を被った色黒の男性が。
マリさんは満面の笑みを浮かべ男性の元へ。
「あなたッ!!」
どんなに遠く離れていても、紅い糸が2人を…。
~FIN~