親友を好きな彼


一香が一人暮らしをしている家は、私が知っている場所とは違っていた。

一緒に仕事をしている時には、今にも倒れそうなくらいに古びたアパートだったけれど、すっかりモダンなオシャレな3階建てアパートに引っ越していたのだった。

「いらっしゃい、由衣」

3階の真ん中の部屋が、一香の部屋だ。

インターホンを押すと、すぐに出てきてくれた。


”どうしても聞きたい事があるの”

電話でそう言った私に、一香は何かを察したのか、元気なく承諾してくれたのだった。

時間もお昼をまわり、さらに暖かく心地良い風が吹いていた。

「お邪魔します。突然、ごめんね」

一香は、ラフなルームウエアを着ていて、目は少し腫れている。

泣いていたのか?そんな感じだ。

1DKの部屋は、白が基調の明るい雰囲気で、ベッドと白い二人掛けのソファーが置いてある。

この部屋には聡士も来て…。

なんて、余計な妄想を働かせて慌てて打ち消した。

とにかく、一香に聞けばいろいろ分かるはず。

紅茶を用意してくれた一香は、自分は床に座り、私をソファーに座らせたのだった。

「由衣の話、だいたい分かるよ」

いつもの覇気のある口調とは違い、心底落ち込んでいる。

「どうして?」

わざと意地悪く言ってみた。

分かるってことは、私の気持ちを知っているってことなんだから。

「ゆうべの事や、聡士の事でしょ?」

やっぱり…。

ゆうべ、大翔と一緒に居たのは一香だったんだ。

予想をしていたこととはいえ、本人から言われるとショックだった。

「何もかも話すわね。由衣に…」

力なく微笑んで、一香は私に話したのだった。

「私ね、由衣には聡士を好きだと話した。それはウソではないんだけど、本当に好きだったのは、大翔の方なの」

「え…?」

大翔を?

全く予想外の告白に、言葉を失った。

「ごめんね由衣。ゆうべは、大翔と寝ちゃった」

そう言われた瞬間、私は無意識の内に一香の頬をひっぱたいていたのだった。

「どうして?大翔は私の元彼よ?それ知っていて、どうして?」

叩かれた一香の頬は、みるみる赤くなっていく。

それでも、涙ひとつ見せない。

代わりに、私の目からは涙がこぼれ落ちていった。

ひっぱたいた手は、じんじんと痛み出したけれど、裏切られた事の方が辛くて、それすらも気にならない。

何で?

何で、私との友情関係は、一香にとってはそんな軽いものだったの?

私には、大翔と寝た事実以上に、それがとっても寂しいよ。

私たち、友達じゃない…。



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